副業の赤字で、本業である給与の源泉所得税の還付を受けられるか?|所得区分を整理

近年、多様な働き方が認められ、副業も珍しい存在ではなくなってきました。

厚生労働省の調査では、副業をしている人の割合は全体の9.7%に上ります(出典:厚生労働省「令和2年8月19日 副業・兼業に係る実態把握の内容等について」)。

副業によって、収入増加や自己実現を果たす人がいる一方で、こんな話が聞こえてくることもあります。

「副業で大きな赤字が出たことにして、本業の給与の黒字と相殺することで、源泉徴収されていた所得税が還付された」。

また、巷には、上記のスキームを用いて「所得税をゼロにしよう」という論調の本も出ています。

実際に事業を行っており、それにより赤字が出てしまった場合には、給与所得と相殺(損益通算)することができます

しかし、架空の経費を計上することは脱税ですので、絶対に行ってはいけません

実際に過去、顧客の会社員に対して、副業の事業損失が出たという虚偽の確定申告を作成させ、報酬を収受していた経営コンサルティング会社(東京都新宿区)代表者の男性が、所得税法違反の容疑で逮捕されています。

本稿では、所得区分の考え方を整理して、どのような場合には副業の赤字と本業の給与を相殺することができるのかを考えてみましょう。

1. 所得税の課税方法

所得税の課税方法まず、所得税の課税方法の基本的な事項について確認していきましょう。

ほとんどの人に身近な存在といえる所得税ですが、その仕組みはとても複雑です。

給与所得、不動産所得、譲渡所得、事業所得、雑所得・・・所得はその性質に応じて10種類に区分されています。

どんな場合にどの所得が発生するかをしっかり理解している人はごく少数で、金融機関に勤めるお金のプロであっても細かい分類までは分かっていないというケースも多いです。

本章では、多くの人の基本となる給与所得と、副業の場面で登場する事業所得と雑所得に的を絞って整理していきます。

 

1)給与所得:多くの人の基本となる所得

給与所得とは、勤務先との雇用契約等のもとに提供される労働の対価として受け取る給与、賞与、手当、現物給与などが対象となります。

 

給与所得の金額は、次の式により計算します。

給与所得の金額 = 収入金額(源泉徴収前の金額)- 給与所得控除額
  • 給与所得控除額

給与所得は、事業所得のように経費を控除することができません。

理由は、給与所得は個別的に必要経費を認定することが困難であるとされているから、とされています。

必要経費を控除できない代わりに、給与収入をもとに計算した一定の金額を概算経費として、給与収入から差し引くものが、給与所得控除です。

給与所得控除は、以下の計算式によって算出します。

給与等の収入金額
(給与所得の源泉徴収票の支払金額)
給与所得控除額
1,625,000円まで 550,000円
1,625,001円から1,800,000円まで 収入金額×40%-100,000円
1,800,001円から3,600,000円まで 収入金額×30%+80,000円
3,600,001円から6,600,000円まで 収入金額×20%+440,000円
6,600,001円から8,500,000円まで 収入金額×10%+1,100,000円
8,500,001円以上 1,950,000円(上限)

上記の図によれば、給与収入が8,500,001円以上である場合には、1,950,000円の給与所得控除額がひかれることなります。

概算経費ですので、実際に1,950,000円を支出していなくても、給与所得の計算上当然に引かれることになります。

なお、給与所得2,000万円以下で他の所得がない場合には、給与から所得税が源泉徴収により徴収され、年末調整により調整されて最終的な税額が確定し、確定申告は不要となります。

一定の金額以下の給与所得者は、控除額は自動的に概算で決定され、確定申告の手続きは基本的に不要ということから、手続きの容易さという点では優遇されていることが分かります。

 

2)事業所得:該当すると税制上のメリットが多数

副業による収入は、事業所得と雑所得のいずれかに該当する場合が多いといえます。

まず、事業所得から確認していきましょう。

事業所得とは、製造業、卸売業、小売業などの各種の事業から生じる所得とされています。

 

事業所得の金額は、次の式により計算します。

事業所得の金額 = 総収入金額 - 必要経費(-青色申告特別控除額)
  • 必要経費

必要経費とは、収入を得るために直接必要な売上原価や給与・賃金などの販管費などの費用のことをいいます。

具体的には、売上原価(商品の仕入れ代金)、販売費用、給与、減価償却費、広告宣伝費、支払家賃、水道光熱費、固定資産税、事業税などが算入されます。

ポイントは、直接必要な経費のみを必要経費に算入することができるという点です。

いわゆる家事費(≒生活費)等は含まれませんので注意が必要です。

 

 

事業所得に該当した場合のメリットのうち一部をご紹介すると、以下のようなものがあります。

  • 青色申告特別控除額を控除することができる
  • 損益通算ができる

これらのメリットは、次に説明する雑所得では享受することができないものです。

ひとつずつ内容を説明していきましょう。

 

  • 青色申告特別控除額を控除することができる

青色申告特別控除額は、上記の計算式の通り、事業所得を計算する上で控除することができるものです。

適用要件には、「青色申告を行う」「複式簿記により記帳する」「電子申告等を行う」などといったものがあります。

控除できる金額は、上記の要件をどの程度満たしているかに応じて、「10万円」「55万円」「65万円」から、いずれかの金額が適用されます。

 

  • 損益通算ができる

本稿で紹介している給与所得、事業所得、雑所得の3つの所得区分は、いずれも、複数の所得をまとめて課税する総合課税に該当します(このほか、不動産所得、一時所得なども総合課税に含まれますが、別の記事で整理します)。

複数の所得の金額をまとめるときに、ある所得区分では所得(黒字)が出ており、他のある所得区分では損失(赤字)が出ているといった場合に、通算(相殺)する仕組みのことを損益通算といいます。

赤字がでていれば、なにがなんでも損益通算することができるというわけではありません。

損益通算することができるのは、不動産所得、事業所得、山林所得、譲渡所得の4区分に限られています(余談ですがこの4区分を、ファイナンシャル・プランナーの試験などでは「フ・ジ・サン・ジョウ(富士山上)」と覚えます)。

つまり、事業所得に該当しそれが赤字であれば、給与所得と損益通算することができます。

そして、それによって給与から源泉徴収されている所得税を還付することが出来る場合があります。

 

3)雑所得:「その他」の所得区分

次に、副業収入が該当する可能性が高いもう一つの選択肢である雑所得についてご説明します。

雑所得とは、簡単に言ってしまえば、その他の所得を示します。

つまり、別に規定されている「利子所得」「配当所得」「不動産所得」「事業所得」「給与所得」「退職所得」「山林所得」「譲渡所得」「一時所得」のいずれにも該当しない所得です。

例えば、国税庁のホームページでは、公的年金の収入、原稿料、シェアリングエコノミーに係る所得が列挙されています。

シェアリングエコノミーとは、インターネット上のプラットフォームを介して、個人間で遊休状態の物品・場所・スキルなどを貸し借りする仕組みを指します。

そして、これにはいわゆるギグエコノミー(インターネットを介して単発の仕事の受注、発注を行う市場)の概念を含まれるものとされています。

そのため、シェアリングエコノミーに係る所得とは、民泊、単発の業務委託に係る報酬などが該当すると解されています。

国税庁は「副業」と示していますが、「副業とはなにか?」「どこまでが副業で、どこからが本業なのか?」といった具体的な判断基準についてはについては示されていません。

この点については、次章で検討してみましょう。

 

 

雑所得の金額は、次の式により計算します。

雑所得の金額(公的年金以外) = 総収入金額 - 必要経費

事業所得の項で確認した通り、ここでのポイントは「雑所得の場合には、損益通算と青色申告特別控除額の適用ができない」ということです。

 

本章では、多くの人の基本となる給与所得と、副業の場面で登場する事業所得と雑所得について確認してきました。

事業所得と雑所得にはどのような線引きがあるのかについて、次章で確認していきましょう。

 

2. 実例から見る事業所得と雑所得の境界線

先々の老後資金計画

何をもって事業所得とするかについては、困ったことに税法上明確な線引きはされておらず、過去、多くの争いとなりました。

事業所得の該当性、つまり事業性については、下記の要素が判定の基準となると、判例において示されています。

  • 自己の計算、危険において独立して営まれること
  • 営利性、有償性の有無
  • 継続性、反復性の有無
  • 事業としての社会的客観性

それでは、上記を参考にして、実際の事件を確認してみましょう。

 

1)会社役員が個人で画廊を経営、赤字を役員報酬と損益通算しようとした事例【事業所得には認められず雑所得に】

  • 概要

会社役員が、個人で画廊を経営し、その赤字を事業所得のマイナスとして、給与所得(役員報酬)と損益通算をしようとしたが、課税庁に認められなかったという事例です。

この事例では、課税庁からの指摘の対象となった4年間の間に50点~60点の絵画の売買があり、毎年、約60百万円もの金額を事業損失として計上していました。

  • 問題視された点

この事例で問題視されたのは、以下のような点です。

① 画廊の機能を持つ店舗を有しておらず、役員として勤務している会社の一角に応接セットを置いているだけだった。

② 購入する絵画の選定と売却先の探索は、他人(雇用関係等なし)に任せてしまっており、本人は精神的、肉体的労力を費やしていない。

③ 絵画は、購入から売却までの期間が10日前後のものが大部分であり、購入から売却の日が同一のものもあった。

④ 広告宣伝などは行っていなかった。

⑤ 赤字の要因は、業務の開始当初に高額な絵画を購入するために借り入れた資金の支払利息。その資金で購入した絵画のほとんどは在庫になった。

⑥ それ以降は、在庫を有さず、若干の鞘を抜くだけの取引ばかりを行うようになった。

  • 上記の要件への当てはめ

上記の要件に当てはめて考えてみましょう。

このケースでは、毎年、数十件の絵画を売買しており、若干の「継続性・反復性」は認められるところでした。

しかし、他人に業務のほとんどを任せてしまっており、開始当初以外は若干の鞘を抜くだけの取引が多かったことから、「自己の計算、危険において独立して営まれている」とは認められませんでした。
また、毎期赤字であり、「営利性、有償性」はないと言わざるを得ません。
そして、広告宣伝等を実施しておらず、画廊としての設備もないことから、「事業としての社会的客観性」もないと判断されました。

結果として、事業所得ではなく、雑所得に該当するとして、損益通算は認められませんでした。

 

2)参考:脱税指南コンサルタントのケース

最後に、前文で触れた脱税を指南した事件の概要を再度確認してみましょう。

脱税指南のスキームは、「副業の赤字を、本業の給与と相殺して、給与から源泉徴収されている所得税の還付を受ける」というもので非常にシンプルでした。

ここで問題だったのは、副業が実際には存在しなかったという点です。

つまり、架空の収入、経費をでっちあげ、赤字の事業所得がある状態にして、給与所得と通算をしたというものです。

この事件は、完全な脱税であり問題外といえます。しかし、所得税の節税に関しては、対策手法が限られていることもあり、このような危険な手法の話が聞こえてくることもあります。

もし給与所得者のあなたにこのような話があっても、まずは、「美味しい話はない」ということを思い出して、判断をしてもらえればと思います。

 

まとめ

本稿では、副業の赤字で本業である給与の源泉所得税の還付を受けられるか?を確認してきました。

結論は、副業が事業所得に該当すればそれが可能な場合もある、というものでした。

副業からの所得が、事業所得に該当するか否か、という点は明確に線引きされておらず、判断が困難であるところですが、安易に考えて損益通算をするということはお勧めはしません。

副業をしている場合の税務処理などに不安がある方や相談したい方は、ぜひ一度、税理士等の専門家にご相談ください。

※本ページに記載されている内容は2021年10月4日時点のものです
※記載内容に誤りがある場合、ご意見がある方はこちらからお問い合わせください

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