相続対策のために、親から子へ、または、祖父母から孫へ、コツコツと現預金を生前贈与する光景はいたるところに見られます。
その際に気を付けなければならないのが「名義預金」の問題です。
いざ相続が発生したときに、贈与を受けていた子や孫の預金が名義預金であると税務署から認定されてしまった場合、その預金は子や孫の名義ではあるが、実質は相続財産であるとみなされ、相続税が課税されてしまいます。
せっかく長年をかけて行ってきた贈与が無意味になってしまい、想定よりも多額の相続税が発生してしまうことになります。
それでは名義預金に認定されないためには、どうすればよいのでしょうか。
名義預金に認定されることを回避するためには、通帳と印鑑を子や孫に渡し、預金口座を子や孫の本人が実質的に管理しているということが重要です。
しかし、例えば10歳の子供に多額の現金の管理をさせるのは現実的ではないという問題がここで発生してしまいます。
贈与した預金を、祖父母や親が管理すれば名義預金とされてしまうリスクがあるが、子や孫自身に管理させるのは教育上よくないので避けたい…、このようなジレンマを打破する方法の一つに「ジュニアNISA」があります。
本稿では、名義預金対策としてのジュニアNISAについてご説明していきます。
1. 名義預金とは
まず、相続対策の局面で問題となる場合が多い名義預金について確認していきましょう。
相続対策のうち、未成年の子や孫に対して生前贈与をする場合などにしばしば問題となります。
相続税の税務調査において名義預金は最も指摘されやすい項目とされています。
本章では、名義預金とはどのようなものかを確認していきましょう。
(1)名義預金とは
名義預金とは、その名の通り、子や孫の名義であるにもかかわらず、実質的には親や祖父母が所有しているとみなされてしまう財産を指します。
コツコツと生前贈与を続けていたようなケースにおいて、相続が発生したときに、贈与を受けていた子や孫の預金が名義預金であると税務署から認定されてしまった場合、その預金は実質は相続人が所有していた相続財産であるとみなされて、相続税が課税されてしまうことになります。
(2)名義預金はどのようなときに問題になるのか?
名義預金が問題になるのは、実際に相続が発生して相続税申告をした後、1~2年後に税務署の税務調査が入ったときです。
相続税の税務調査は全ての相続に入るわけではなく、相続全体の約2割に入るとされています。
その税務調査において、税務署により子や孫の預金が名義預金であると認定された場合、子や孫に贈与した財産は、実質的な所有者である親や祖父母の財産として相続税が課税されてしまいます。
(3)名義預金と認定されるポイント
名義預金について実質的に誰が所有しているかという判断は非常に難しいところです。
一般的には「通帳や印鑑を管理しているのは誰か」という点がポイントとされます。
つまり、通帳と印鑑をしっかりと受贈者(贈与を受ける者)に渡しているか、預金口座を受贈者(贈与を受ける者)が実質的に管理しており自由に引き出すことができるか、ということが重要です。
しかし、子供に多額の現金の管理をさせるのは教育上悪影響があるため現実的ではないという問題がここで発生してしまいます。
次章では、その対策の一つとしての「ジュニアNISA」をご説明したいと思います。
2. ジュニアNISAとは?
(1)ジュニアNISAとは?
ジュニアNISAとは、子供の資産形成を支援するために創設された、子供版のNISA制度です。
NISAとは、小額投資非課税制度のことをいい、簡単に言えば、NISA制度を活用すれば、金融商品から得られる利益が非課税となります。
NISA制度とジュニアNISA制度を比較して整理してみると以下の通りです。
NISA | ジュニアNISA | |
対象者 | 20歳以上の人 | 0歳~19歳の人 |
非課税対象 | 株式・投資信託等への投資から得られる配当金・分配金や譲渡益 | 同左 |
利用限度額 (非課税枠) |
120万円/年 | 80万円/年 |
非課税期間 | 投資をした年から最長5年間 |
投資をした年から最長5年間だが、20歳までは非課税で保有可能 |
投資が可能な期間 | 2028年12月末まで | 2023年12月末まで |
運用管理者 | 本人 | 原則として、本人の二親等以内の親族が代理して運用 |
払出し制限 | なし |
原則として18歳までは払出しが制限されるが、2024年1月からは払出し制限は撤廃 |
※成年年齢引き下げにより、2023年1月1日以降は、「20歳」の記載は「18歳」に、「19歳」の記載は「17歳」となります。
注意が必要な点として、投資が可能な期間は2023年12月末までという点があげられます。
金額としては年間80万円が上限ですので、2022年から開始すれば、80万円×2年=160万円までは活用することができます。
(2)ジュニアNISAで名義預金対策をするには?
名義預金対策には、実質的に誰が所有しているかという視点が非常に重要です。
ですが、現金や預貯金を子や孫が自由に使える状態にしてしまうと、無駄遣いをされてしまうというリスクがあります。
このジレンマを解決するためには、贈与した現金や預貯金を、子供だけで払出したり解約したりすることができない金融商品に変換してしまえば大丈夫です。
そのために利用できる金融商品の一つが「ジュニアNISA」です。
実施方法は簡単で、子・孫の名義でジュニアNISA口座を開設し、親・祖父母から入金をすれば大丈夫です。
ジュニアNISA口座は、親権者が子・孫の代理で運用を行うため、上記の無駄遣い防止という目的には持ってこいであると考えられます。
(3)ジュニアNISAの注意点
ジュニアNISAの注意点は、投資が可能な期間は2023年12月末までという点です。
2022年から開始した場合には、80万円×2年=160万円までしか使うことができませんが、口座開設が2023年になれば当然1年分の80万円しか利用することができません。
ジュニアNISA口座を新規に作成しようとする場合には、だいたい1ヶ月くらいの期間が必要ですので、実施する場合には早めの対応が必要です。
また、従来のジュニアNISAでは18歳までは払出しが制限されるという点が注意点としてありましたが、2024年以降は払出し制限が撤廃されますのでこの点は使い勝手が非常に改善したといえます。
まとめ
本稿では、ジュニアNISAを活用した名義預金対策を検討してきました。
どのような相続税対策を行った方がいいのか、という点を自分で判断することが難しい場合には、税理士や相続対応可能なIFAなどのアドバイザーに相談してみましょう。