思いを正しく遺言に残して、スムーズな相続を

あなたが亡くなった後に、あなたの財産をめぐって相続人が争いを起こす・・・想像するだけでとても悲しいことですが、そのような相続をめぐる争いが、相続の現場では多く発生しています。

あなたの思いを法的に相続人に遺す方法の一つに、「遺言」があります。

しかし、法律に定められた要件を満たさなければ遺言は無効となってしまいます。

本稿では、「遺言」によってあなたの思いをしっかりと相続人に遺すために注意すべきことを説明していきます。

1. 遺言の法的性質とは?

まずは、「遺言」の法的性質を確認していきましょう。

遺言は、次のように定義されています。

人が、死亡後に法律上の効力を生じさせる目的で、遺贈、相続分の指定、相続人の廃除、認知などにつき、民法上、一定の方式に従ってする単独の意思表示。

出典:小学館「大辞泉」より

上記の通り、遺言とは民法に規定される法律行為です(法律上は「ゆいごん」ではなく「いごん」と読みます)。

そのため、死後のために思いなどを書き残す文書である「遺書」とは、まったく異なるものです。

法律行為である遺言を理解する上で重要なのが以下の性質です。


1)要式行為

遺言は、法律に定められている形式によって行わなければ、効果がありません。

そのような行為を、要式行為といいます。

民法を確認してみましょう。

遺言は、この法律に定める方式に従わなければ、することができない。

民法「第九百六十条 遺言の方式」より抜粋

定められた形式を満たしていない遺言では効果がありませんので、後述する形式要件をしっかり確認するようにしてください。

この要式行為は、遺言の他には、婚姻や保証契約など、限られた種類の重要な事項にしか該当しません。

 

遺言は、遺言者の死後に効力を生じる遺言者の最終の意思表示です。

亡くなった後に遺言者の真意を本人に確認することはできませんので、遺言者の真意を明確にし、他人の偽造などを防止することが求められます。

そのため、形式をしっかりと満たさなければならないという要件が設けられています。


2)単独行為

遺言は、遺言者が単独で行う法律行為です。

遺言者の一方的な意志表示で法律効果を発生させることができます。

対応する概念の一つには「契約」があり、契約は申込と承諾の意思表示が合致することにより成立する法律行為です。

遺言は、単独行為ですので、遺言者が意思表示をするだけで成立します。

そのため、内容について相続人の承諾などを取り付ける必要はありません。


3)死後行為(死因行為)

遺言は、死後にはじめて効力が発生する「死後行為(死因行為)」です。

民法を確認してみましょう。

遺言は、遺言者の死亡の時からその効力を生ずる。

民法「第九百八十五条 遺言の効力の発生時期」より抜粋

このように、遺言は遺言者の死亡の時から効力を生ずる旨が民法に明示されています。

民法には、重要な原則として「私的自治の原則」があります。

私人(いわゆる一般市民)の間で法律関係を成立させることは、一切を個人の自主的決定によるものとするという原則です。

 

遺言は、遺言者の死後における財産の帰属を遺言者自身が決定するものであり、私的自治の原則をその死後にまで延長するものという性質があります。

一方、遺言者の生前においては「遺言」に書いてある内容は効力を発生しません。

生前の段階で、財産の所有や管理について、相続人などに移転したい場合には、「生前における贈与」や「民事信託」などを活用することができます。


4)遺言能力

遺言は「満15歳」から行うことができます。

十五歳に達した者は、遺言をすることができる。

民法「第九百六十一条 遺言能力」より抜粋

民法や税法を見渡しても、「15歳」という年齢が要件になることは極めて稀です。

この「15歳」という年齢は、明治時代の民法において結婚が可能となる年齢が、男性は17歳、女性は15歳であったということに由来しています。

当時の結婚可能年齢の下限である「15歳」という年齢が、遺言をする能力があると判断される年齢の基準とされました。

現代においても、義務教育である中学校を卒業する年齢が15歳であり、義務教育の修了以降は仕事を行って自らの財産を形成していくことができます。

その点でも実情と合致しているのではないかと考えられます。

 

ここまで、遺言の法的性質について確認してきました。

次に、遺言で何をすることができるかを確認していきましょう。

2. 遺言によってできること

本を読んで学ぶ

遺言によってできること、代表的な事項は次のようなものです。

簡単に言うと、「誰に」「いくらの財産を」「どのように」相続するかを指定することができます。

  1. 親子関係の認知
  2. 財産の遺贈
  3. 推定相続人の廃除
  4. 相続分の指定
  5. 遺産分割方法の指定と遺産分割の禁止

それでは、それぞれを確認していきましょう。

1)親子関係の認知

遺言者は、遺言に記載することにより、法律上の婚姻関係にない男女の間に生まれた子供の認知をすることができます。

民法を確認してみましょう。

嫡出でない子は、その父又は母がこれを認知することができる。

民法「第七百七十九条 認知」より抜粋

認知は、戸籍法の定めるところにより届け出ることによってする。
認知は、遺言によっても、することができる。

民法「第七百八十一条 認知の方式」より抜粋

法律上の婚姻関係にある男女の間に生まれた子供を「嫡出子」、そうではない関係の男女の間に生まれた子供を「非嫡出子」といいます。

嫡出子である場合、父親または母親に相続が発生した場合には、当然その相続権を有することになります。

一方、非嫡出子の場合は、母親との親子関係は出産の事実によって確定しますが、父親との親子関係は認知があるまでは確定しません。

認知のない状態では、子供は父親に扶養の請求をすることはできませんし、父親に相続が発生した場合においてもその相続権はありません。

自らが法律上の父親であることを確定する手続きが認知であり、なんらかの理由で生前に認知をすることができない場合に、遺言により認知をすることができます

なお、以前は、非嫡出子の相続分は、嫡出子の1/2とされていましたが、現在は同等になっています。


2)財産の遺贈

遺言者は、遺言に記載することにより、第三者や相続人に財産を自由に渡すことができます。

これを「遺贈」といいます。

遺言者は、包括又は特定の名義で、その財産の全部又は一部を処分することができる。

民法「第九百六十四条 包括遺贈及び特定遺贈」より抜粋

財産の「全部」または「財産の半分」など割合を決めて遺贈する方式を包括遺贈といいます。

それに対して、相続財産に含まれる具体的な財産を遺贈することを特定遺贈といいます。

遺贈を受けた者(受遺者)は、相続税を申告・納税することが必要です。

遺贈はあくまで、遺言に記載することによりなされるため、あくまで遺言者本人の単独行為となります。

そのため、遺贈を受けた者は、遺言者の死亡後いつでも放棄をすることができる旨が民法に定められています。


3)推定相続人の廃除

遺言者は、遺言に記載することにより「推定相続人の廃除」を行うことができます。

これは、推定相続人(相続開始後に相続人となる人)から、相続する権利を奪ってしまう制度です。

被相続人が遺言で推定相続人を廃除する意思を表示したときは、遺言執行者は、その遺言が効力を生じた後、遅滞なく、その推定相続人の廃除を家庭裁判所に請求しなければならない。この場合において、その推定相続人の廃除は、被相続人の死亡の時にさかのぼってその効力を生ずる。

民法「第八百九十三条 遺言による推定相続人の廃除」より抜粋、筆者強調表示

例えば、被相続人が相続人からひどい扱いを受けていた場合、その相続人に対して自分の財産を相続させたくないと思うのは当然ですよね。

そういったときに適用することができる制度です。

どのようなケースであれば、廃除できるかについては、以下のように定められています。

遺留分を有する推定相続人(相続が開始した場合に相続人となるべき者をいう。以下同じ。)が、被相続人に対して虐待をし、若しくはこれに重大な侮辱を加えたとき、又は推定相続人にその他の著しい非行があったときは、被相続人は、その推定相続人の廃除を家庭裁判所に請求することができる。

民法「第八百九十二条 推定相続人の廃除」より抜粋、筆者強調表示

なお、表記されている通り、廃除の手続きは、家庭裁判所に申し立てをする必要があり、家庭裁判所の調停、審判により決定されます。


4)相続分の指定

遺言者は、遺言により相続分を指定することができます。

まずは、民法の規定を見てみましょう。

(遺言による相続分の指定)
第九百二条 被相続人は、前二条の規定にかかわらず、遺言で、共同相続人の相続分を定め、又はこれを定めることを第三者に委託することができる。

民法「第八百九十二条 推定相続人の廃除」より抜粋、筆者強調表示

民法で定められた相続分を、法定相続分といいます。

例えば、家族構成が「配偶者」と「子供2人」であった場合の法定相続分は、次のようになります。

  • 配偶者は1/2
  • 子供2人は1/4ずつ

遺言者は、遺言によってこの法定相続分と異なる分け方を定めることができます

例えば、先ほどの家族構成の場合に次のように指定することができます。

  • 配偶者に2/3
  • 子供2人は1/6ずつ

なお、遺言者が遺言により相続分を指定していても、その後、相続人全員の合意による遺産分割協議がなされた場合には、遺産分割協議が優先されます。


5)遺産分割方法の指定と遺産分割の禁止

遺言者は、遺言に記載することにより、遺産分割方法を指定することができます。

被相続人は、遺言で、遺産の分割の方法を定め、若しくはこれを定めることを第三者に委託し、又は相続開始の時から五年を超えない期間を定めて、遺産の分割を禁ずることができる。

民法「第九百八条 遺産の分割の方法の指定及び遺産の分割の禁止」より抜粋、筆者強調表示

遺産分割方法の指定とは、例えば「預貯金はAに取得させ、土地はBに取得させる」といったものです。

 

また、遺言者は遺言に記載することにより、5年を上限として遺産分割を禁止することができます。

この遺産分割の禁止はメリットが分かりづらいかもしれません。

遺産分割の禁止を検討するケースとしては、非嫡出子が多数いるなどの事情で相続人が複雑になるため整理のために時間が必要であるケースや、相続人が未成年であることから成年後に遺産分割協議に加わってほしいと遺言者が考えているケースなどが考えられます。

そういったときに、5年間を上限として遺産分割を禁止することができます。

 

ここまで、遺言によりなにができるのかを確認してきました。

次に実際に定める遺言の種類を確認していきましょう。

3. 遺言の種類

遺言の種類は、以下のように民法に規定されています。

遺言は、自筆証書公正証書又は秘密証書によってしなければならない。ただし、特別の方式によることを許す場合は、この限りでない。

民法「第九百六十七条 普通の方式による遺言の種類」より抜粋、筆者強調表示

遺言は、普通方式として「自筆証書遺言」「公正証書遺言」「秘密証書遺言」の3種類があります。

また、その他に、緊急事態における遺言として特別方式の遺言があります。

それぞれ見ていきます。

1)自筆証書遺言

自筆証書遺言とは、遺言者自らが全文を自署・押印して作成する遺言です。

自筆証書によって遺言をするには、遺言者が、その全文、日付及び氏名を自書し、これに印を押さなければならない。

民法「第九百六十八条 自筆証書遺言」より抜粋

なお、民法の改正により、上記に添付する財産目録はPCやワープロ等で作成することが可能となりました。

ただし、その場合でも財産目録のページごとに署名し、押印することが必要です。


2)公正証書遺言

「公正証書遺言」とは、遺言者が証人とともに公証役場に行き、公証人の前で口述して作成する遺言です。

公正証書によって遺言をするには、次に掲げる方式に従わなければならない。

  1. 証人二人以上の立会いがあること。
  2. 遺言者が遺言の趣旨を公証人に口授すること。
  3. 公証人が、遺言者の口述を筆記し、これを遺言者及び証人に読み聞かせ、又は閲覧させること。
  4. 遺言者及び証人が、筆記の正確なことを承認した後、各自これに署名し、印を押すこと。ただし、遺言者が署名することができない場合は、公証人がその事由を付記して、署名に代えることができる。
  5. 公証人が、その証書は前各号に掲げる方式に従って作ったものである旨を付記して、これに署名し、印を押すこと。

民法「第九百六十九条 公正証書遺言」より抜粋、筆者強調表示(リストの番号は英数字からローマ数字に変更)

作成された公正証書遺言は、公証役場に原本が保管され、遺言者に写しが交付されます。そのため、紛失などのリスクのない、安全な方法であるといえます。


3)秘密証書遺言

「秘密証書遺言」とは、遺言者が単独で作成し封印した遺言書に、公証人一人及び証人二人以上で署名・押印をしてもらうことにより作成します。

遺言書の内容を、遺言者本人以外には一切秘密にできるという遺言の方式です。

秘密証書によって遺言をするには、次に掲げる方式に従わなければならない。

  1. 遺言者が、その証書に署名し、印を押すこと。
  2. 遺言者が、その証書を封じ、証書に用いた印章をもってこれに封印すること。
  3. 遺言者が、公証人一人及び証人二人以上の前に封書を提出して、自己の遺言書である旨並びにその筆者の氏名及び住所を申述すること。
  4. 公証人が、その証書を提出した日付及び遺言者の申述を封紙に記載した後、遺言者及び証人とともにこれに署名し、印を押すこと。

民法「第九百七十条 秘密証書遺言」より抜粋、筆者強調表示(リストの番号は英数字からローマ数字に変更)


4)特別方式による遺言

特別方式による遺言とは、「病気などによって死亡の危急に迫った者」「伝染病隔離者」「在船者」「船舶遭難者」などの特殊な状況にある者のみに許されている遺言の方式です。

民法の976条から979条に定められており、例えば「在船者」の場合には、下記のように規定されています。

船舶中に在る者は、船長又は事務員一人及び証人二人以上の立会いをもって遺言書を作ることができる。

民法「第九百七十八条 在船者の遺言」より抜粋、筆者強調表示

この章では、遺言の種類として、普通方式たる「自筆証書遺言」「公正証書遺言」「秘密証書遺言」と、緊急事態における遺言として「特別方式の遺言」を確認してきました。

まとめ

この記事では、あなたの思いを法的に相続人に遺す方法の1つである遺言について取り上げてきました。

遺言として効力を発揮するためには、法律に定められた形式を守って作成する必要があります。

相続に関してお困りの場合は、相続・贈与に対応可能なIFAや税理士等の専門家にご相談ください。


 

※本ページに記載されている内容は2021年3月25日時点のものです
※記載内容に誤りがある場合、ご意見がある方はこちらからお問い合わせください

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