成年後見制度で認知症者の財産を保護|ただし相続対策は困難に

あなたの大切な人が認知症になってしまい、悪質なセールスから不要なものを買ってしまっていた、さらには、大切な実家の土地を売ろうとしていた・・・そういった事態を防ぐための制度が成年後見制度です。

成年後見制度を活用すると、認知症や知的障害、精神障害などといった理由によって判断能力が十分にない人を保護することができます。

ただし、この制度は認知症などになった本人を保護することが目的であるため、相続税の対策などを行うことは難しくなる可能性があります。

この記事では、成年後見制度の内容やメリット・デメリットを見ていきます。

1.成年後見制度とは?

成年後見制度は、認知症や知的障害、精神障害などといった理由によって判断能力が十分でない人に代わって、援助者等が法的にその財産を保護する役割を担うことができる制度です。

具体的には、商品の購入や家の増改築工事などの注文やキャンセルを、本人に代わって行うことができます。

ニュースなどで、お年寄りを狙った高額のリフォームなどの問題を目にしたことがある人も多いと思います。

日本は長寿化に伴い、認知症になる人の数が増えており、残念ながらそういった方を狙った悪質な詐欺や商品販売があります。

認知症は誰もがなる可能性のある病気ですので、自分の親は大丈夫だと考えず、万が一のことを考えて事前に制度利用を検討しておく必要があります。

認知症者の人数推移と将来推計

2020年時点での、日本の認知症者の人数は約600万人になっており、これは高齢者人口の約17%です。

認知症の人数と将来推計厚生労働省「成年後見制度の現状(令和元年5月)」を元に、Route100編集部制作

さらに、将来的にも認知症者の人数、および人口比率は増えると推計されており、2040年には約800万人、高齢者人口比率で約21%、つまり5人に1人が認知症の社会になっていると予測されています。

このデータから見ても、自分の親、もしくは自分自身が認知症になることを前提に備えを行うことが賢明だと考えられます。

 

また、成年後見制度には、大きく分けて「法定後見制度」と「任意後見制度」の2種類があります。

2つの違いは、既に判断能力がなくなっているか、現時点では判断能力があるかです。

それぞれ、詳しく見ていきます。

2. 法定後見制度

法定後見制度は、判断能力が不十分になってから活用することができる制度です。

法定後見制度とは、ご本人の判断能力が不十分になった後、家庭裁判所によって、成年後見人等が選ばれる制度です。

厚生労働省「法定後見制度とは(手続の流れ、費用)」より抜粋

法定後見制度には、判断能力の度合いに応じて3つの種類があります。

1)法定後見制度の種類

程度の軽いものから順に「補助」「保佐」「後見」の3つがあり、次のような違いがあります。

項目 補助 保佐 後見
対象となる方 判断能力が不十分な方 判断能力が著しく不十分な方 判断能力が欠けているのが通常の状態の方
成年後見人等が同意又は取り消すことができる行為(日常生活に関する行為は含まれない) 申し立てにより裁判所が定める行為(借金、相続の承認や放棄、訴訟行為、新築や増改築など) 借金、相続の承認などの行為のほか、申立てにより裁判所が定める行為 原則としてすべての法律行為
成年後見人等が代理することができる行為(本人の居住用不動産の処分は、家庭裁判所の許可が必要) 申し立てにより裁判所が定める行為 原則としてすべての法律行為
 

厚生労働省「法定後見制度とは(手続の流れ、費用)」より抜粋、筆者一部加工

援助する人を、それぞれ「補助人」「保佐人」「成年後見人」と呼びます。

また、禁治産者という言葉を聞いたことがある方がいるかもしれません。

禁治産制度は成年後見制度の前身の制度で、禁治産制度は2000年に廃止され成年後見制度に改められました。

それでは、それぞれの特徴を確認していきましょう。


① 補助

補助は、判断能力が不十分な方が対象とされており、3つの種類の中では最も軽度の認知症の場合などが対象となります。

補助人は、あらかじめ本人が望んだ一定の事項について同意権を保有します。

例えば、借金、相続の承認、放棄、訴訟行為、新築や増改築など家庭裁判所が定めた行為に対して、補助人がその同意権を得ます。

補助される人が、補助人の同意なしにこれらの取引などを行った場合、補助人は取り消すことができます。


② 保佐

保佐は、補助よりも症状が重く、判断能力が著しく不十分な人が対象とされています。

具体的には、認知症の症状が出る日もあれば、出ない日もあるといった中程度の認知症の場合などに選択されるケースが多いです。

保佐人は、借金、相続の承認、不動産の購入などの重要な法律行為についての同意権を持ちます。

保佐を受ける人が、保佐人の同意なしにこれらの取引を行った場合は、補助と同様に保佐人は取り消すことができます。


③ 後見

後見は、判断能力が欠けている状態が通常である人が対象とされています。

重度の認知症や植物状態の場合に選択されます。

成年後見人は、原則としてすべての法律行為を代理することができます。

また、成年後見人の同意を得ずに本人が行った法律行為を取り消すことが可能です。


2)申請の流れ

また、法定後見制度を適用するまでの流れを確認しておきましょう。

① 家庭裁判所への申し立て

まず、本人が居住する地域を管轄する家庭裁判所に申し立てを行います。

申し立てを行うことができる人は、「本人」「配偶者」「4親等内の親族」「弁護士などの法定代理人」のみです。

② 調査等

裁判所から親族に対して、意向照会を行う場合があります。

意向照会とは、後見の申し立てや後見人となる人について、親族がどういう意向を持っているかを確認することです。

本人の判断能力について鑑定を行うことがありますが、その場合には10万~20万円程度の費用が発生します。

③ 審判

家庭裁判所が、後見等の開始の審判をすると同時に、成年後見人などを選任します。

④ 報告

家庭裁判所が選任した成年後見人等は、選任された後、原則1か月以内に本人の財産目録や収支予定表を作成して家庭裁判所に提出します。

成年後見人等は、原則1年に1回以上、本人の生活や財産の状況を報告する必要があります。

3. 任意後見制度

任意後見制度には、以下の特徴があります。

現時点では十分な判断能力がある方が、将来判断能力が不十分になった場合に備えて、あらかじめ公正証書で任意後見契約を結んでおき、判断能力が不十分になったときに、その契約にもとづいて任意後見人が本人を援助する制度です。

裁判所・裁判手続 家事事件Q&A「「任意後見」とは,どのような制度なのですか。」より抜粋

任意後見制度のポイントは、対象となる者の判断能力に問題がない時点で、将来判断能力が不十分になってしまったときのために、公正証書で契約をしておくものです。

任意後見人が保有する代理権は、この公正証書で定められた範囲です。

任意後見制度は契約であるため、本人に十分な判断能力が備わっている必要があります。

そのため、すでに認知症になってしまっている人と任意後見に関する契約を行うことはできません。

1)申請の流れ

① 任意後見契約締結

本人と後見人となる人が、公正証書によって任意後見契約を締結します。

② 任意後見監督人選任の申し立て

その後、実際に本人の判断能力が低下したときに、家庭裁判所に任意後見監督人選任の申し立てを行います。

任意後見監督人とは、後見人を監督する役割を持つ者です。

なお、この申し立てをすることができるのは、「本人」「配偶者」「4親等内の親族」「後見人になる予定の者」のみです。

この選任が行われると、任意後見が開始されます。

4. 後見人制度の利用人数と推移

先ほど認知症の人が増えているデータをご紹介しましたが、実際に後見人制度を利用する人は増えているのでしょうか?

また、実際にはどの成年後見制度を利用している人が多いのでしょうか?

厚生労働省「成年後見制度の現状(令和元年5月)」を元に、Route100編集部制作

このデータからは次のことが分かります。

  • 成年後見制度を利用する人が全体的に増えている
  • 後見を利用する人が圧倒的に多く、次いで保佐を選択する人が多い
  • 任意後見制度を利用する人の割合は少ない(2018年時点で約2,600人)

このことから、やはり事前に備えをする人は少なく、症状がかなり進行し、本人の判断が難しい状況になってから対処していることが考えられます。

自分が認知症になるとはなかなか考えられないことかもしれませんが、実態として高齢者の5人に1人は認知症になるとされています。

早めのタイミングで、親子で話し合いを行ったり、任意後見制度を活用して保険をかけておくことが望ましいと考えられます。

5. 後見人制度の注意点

成年後見制度は、どちらの制度も判断が難しくなった人の財産を保護する制度ですが、活用する際には、以下のような注意点があります。

  1. 後見人になれる人は限定
  2. 成年後見人への報酬が発生
  3. 相続税の節税対策ができない

それぞれ見ていきます。

1)後見人になれる人は限定

以下に該当する人は、後見人になることができません。

  • 未成年者
  • 「成年後見人」「保佐人」「補助人」を解任されたことがある者
  • 破産開始手続きを受けたが、復権していない者
  • 本人との間で裁判をしている、または過去にしたことがある者(その者の「配偶者」「親」「子」も不可)
  • 行方不明でいる者

後見者には本人の財産を保護する役割があるため、未成年者や本人とトラブルになる可能性がある人は後見人などになることはできません。

2)成年後見人への報酬が発生

成年後見人などには、業務の対価として毎月報酬を支払う必要があります。

基本報酬は、管理する財産の額に応じて下記の金額が目安とされています。

・1,000万円以下:2万円/月

・1,000万円~5,000万円以下: 3~4万円/月

・5,000万円超:5~6万円/月

東京家庭裁判所「成年後見人等の報酬額のめやす」より抜粋

管理する財産が多い場合、管理が複雑・困難になることから報酬額が高くなるとされています。

また、上記の基本報酬をベースにしながら、特別な業務を行う場合には追加で報酬が必要になる場合があります。

例えば、訴訟や調停、遺産の分割や不動産の売却などを行う場合が、追加報酬の対象とされています。

3)相続税の節税対策ができない

成年後見人は、本人の財産・利益を守ることを目的に行動する必要があります。

一方で、相続税の節税対策の多くは、本人の財産を減少させて、配偶者や子供に財産を移管する行為です。

そのため、成年後見制度を適用した後は、相続税対策をすることが困難であるケースが多いといえます。

実際に、年間110万円の非課税枠内で贈与を行う暦年贈与は一般的な相続税対策ですが、本人の財産を減らす行為であるため、成年後見人は行うことが許されていません。

まとめ

この記事では、成年後見制度について取り上げてきました。

認知症や知的障害、精神障害などといった理由によって判断能力が十分でない人を保護することができる制度ですが、原則的には相続対策などを行うことが難しくなりますので、注意が必要です。

相続に関してお困りの場合には、相続・贈与に詳しいIFAや税理士等の専門家にご相談ください。


 

※本ページに記載されている内容は2021年4月15日時点のものです
※記載内容に誤りがある場合、ご意見がある方はこちらからお問い合わせください

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