現在、相続税の節税に関する本や雑誌など様々な情報が巷にあふれています。
専門家に相談する前に、とりあえず自分で出来る範囲で相続対策をやってみるケースもあると思います。
しかしながら、相続対策は素人考えで進めると、後から手痛いしっぺ返しを食らう場合もあります。
この記事では、そのような相続の失敗事例をご紹介します。
1. 相続事例内容
本事例でのお客様のプロフィールや財産の状況は次の通りです。
プロフィール
・家族構成:
-夫:被相続人。2019年に享年87歳で死去。現役時代は歯科医として開業医をしていた。
-妻:83歳、東京都在住。学卒後すぐに夫と結婚、その後ずっと専業主婦であり勤務経験なし。
-長男:56歳、東京都在住、既婚。
-長女:54歳、埼玉県在住、既婚。
・被相続人(夫)の財産構成(相続発生時):
財産の種類 | 内容 | 価格 |
土地 | ・自宅土地(東京都) ・賃貸アパート土地(2棟、兵庫県・千葉県) |
3億2000万円 |
建物 | ・自宅建物(東京都) ・賃貸アパート建物(2棟、兵庫県・千葉県) |
1億1000万円 |
現預金 | 銀行預金のみ |
5000万円 |
有価証券 | 上場有価証券を20銘柄保有 | 7000万円 |
合計 | 5億5000万円 |
財産の種類 | 内容 | 価格 |
現預金 | 銀行預金のみ |
5000万円 |
合計 | 5000万円 |
2. 相続税の申告と税務調査での指摘事項
本ケースでは、すでに相続が発生し、その後、当該相続に関する税務調査が行われています。
相続税の申告と相続税の税務調査に関して、下記に整理していきます。
(1)相続発生(2019年2月)
2019年2月、ゲートボール中に突然倒れ、救急搬送されるも救命の甲斐なく、搬送先の病院で亡くなりました。
持病はなく、突然のことでした。
生前の相続対策については、知り合いから聞いた知識を元に我流で進めていたようでした。
相続税は、相続発生から10か月以内に申告・納税が必要です。
10か月という時間は、長いようで非常に短いです。
葬儀を終え、バタバタと日々を過ごすうちに、申告期限が到来します。
(2)相続税の申告(2019年12月)
相続税の申告期限である2019年12月、なんとか相続税の申告が完了しました。
財産の種類 | 相続税評価額 |
土地 | 3億2000万円 |
小規模宅地の評価減 | △1億円 |
建物 | 1億1000万円 |
現預金 | 5000万円 |
有価証券 | 7000万円 |
相続税評価額 合計 | 4億5000万円 |
上記に対する相続税 合計 | 5493万円 |
※配偶者の税額軽減は法定相続分まで活用、その他計算条件等は割愛します。
突然の相続発生でしたが、「自宅は妻、兵庫県の賃貸アパートは長男へ、千葉県の賃貸アパートは長女へ、その他の財産は均等に分ける」という遺言を残していたため、相続人同士で問題が発生することはありませんでした。
典型的な「金持ち喧嘩せず」パターンで、問題なく相続手続きが完了、そのようにみえました。
(3)税務調査(2021年8月)
相続発生から2年半が経過した頃、税務署から1本の電話がありました。
「税務調査に伺いたいのですが・・・・」
税務調査の事前通知でした。
それから1週間後、スーツを着た2名の税務調査員が自宅を訪ねてきました。
税務調査員は、2日にわたって自宅を訪ね、さまざまな質問をしていきました。
その中の1つが、下記の質問です。
- 学卒後、専業主婦である妻の通帳に5000万円もの預金がある。妻の親から相続したものでもないようだが、この預金の出所はどこか?
対応をしていた妻は、ありのままに下記のように答えました。
- 夫から毎月50万円を生活費として渡され「残った部分はあげる」と言われていたのでそれを貯めていたのが大部分であり、それ以外の一部は妻の親から贈与を受けたもの。
これを受けて、税務調査官は下記のように判断し、相続税の追徴課税を課しました。
- 妻の預金口座にある預金のうち、生活費の残りの部分を貯めた4000万円は実質的には夫の財産、つまり名義財産(名義預金)であり、夫の相続税の申告漏れである。
この結果、追加で約600万円もの相続税が発生することとなりました。
3. どうすれば名義財産にならなかったのか?
このケースでは、夫から妻に毎月多めの生活費を渡し、夫の財産の圧縮を図っていましたが、残りの貯めていた部分について、実質は夫の財産=名義財産として相続税が課税されてしまいました。
それでは、どのようにすれば名義財産にならなかったのでしょうか?
(1)生活費として使いきれば、名義財産にならなかった
夫から生活費としてもらっている金額を、もらう都度使い切ってしまえば、当然財産として残りませんので、名義財産に該当するか否かという議論は出てきません。
また、民法には、直系血族の扶養の義務が規定されており、生活費を負担することは当然の義務とされているため、贈与税が課税されることもありません。
(2)贈与契約書を作成していれば、名義財産にならなかった
妻の名義で貯めようとする金額について、渡す都度にしっかりと贈与契約書を作成していれば、その時点で妻の財産となりますので、実質的には夫の財産=名義財産であると判断されるリスクは減少させることができます。
また、毎年の贈与の金額を、贈与税の非課税限度額である110万円以下にすることで、贈与税もかかりません。
贈与として認められるためには、「しっかり贈与契約書を作成する」などいくつかのポイントがあります。
下記の記事にまとめていますので、ぜひあわせてご確認ください。
贈与税とは?いつ発生するか、贈与が認められないケースと防衛策 |
まとめ
本稿では、我流で進めていた相続対策が税務調査で認められず、追徴課税を受けてしまったケースを確認してきました。
どのような相続対策をすればいいのか、自分がいま行っている相続対策が正しいのか不安になる方も多いと思います。
そういった方は、ぜひ一度、税理士や相続対応可能なIFAなどのアドバイザーに相談してみましょう。