結婚・子育て資金の一括贈与をご存知ですか?
大まかに言うと、結婚や子育てに掛かる費用として、1,000万円を一括で贈与することができる制度です。
通常の贈与のやり方として、毎年110万円を非課税で贈与することができる暦年贈与があります。
ですが、結婚や子育てを行う場合、一時期により多くの費用が必要になることがあります。
そのようなときに有効活用できる制度です。
また、結婚・子育て以外にも、教育資金や住宅取得などのために一括贈与を受けることができる制度があります。
ただし、これらの特例には細かい決まりもあるため、要点を押さえて実行する必要があります。
制度の要件を満たしていない場合、後ほどペナルティとして課税が発生してしまうことがあるため注意が必要です。
この記事では、特例のうち結婚や子育ての一括贈与について、その内容や注意点を確認していきます。
1. 結婚・子育て資金の一括贈与とは?
結婚・子育て資金の一括贈与は、「親や祖父母が、子供や孫に対して結婚や子育てに関わる費用を援助する場合に、一定の金額までは税金が免除される」制度です。
正式には「直系尊属から結婚・子育て資金の一括贈与を受けた場合の贈与税の非課税措置」といいます。
通常は、親子の関係であっても金銭などの財産を贈与するときには、贈与税という税金が発生します。
一方で、子供が結婚するときや出産をするときなどに、その婚礼費用や出産費用などをサポートするために、親が資金援助を行うことは珍しくありません。
また、子供や孫が結婚・出産するときに、親や祖父母が必ずしも生きているとは限りません。
そのような事態への備えとしても、結婚・子育て資金の一括贈与を活用することで、生前に一括で受け渡しておくことができます。
また、日本では高齢世帯が多くの資産を保有していることが多く、その資金を早期に若年層に移転して、若年層の結婚に対する経済面での不安を取り除くことにより、結婚・出産・教育を支援することを狙いとして、2015年度の税制改正で創設されました。
創設した当初は、2019年3月末が期限の制度でした。
その後、社会的なニーズを受けて2021年3月末までの2年延長が決定されました。
さらに、2021年の税制改正で追加で2年の延長が決定し、現在は2023年3月末が期限となっています。(財務省「令和3年度税制改正」より)
それでは、国税庁の定めを元に制度の内容を確認します。
20歳以上50歳未満の方(以下「受贈者」といいます。)が、結婚・子育て資金に充てるため、金融機関等との一定の契約に基づき、受贈者の直系尊属(父母や祖父母など。以下「贈与者」といいます。)から①信託受益権を付与された場合、②書面による贈与により取得した金銭を銀行等に預入をした場合又は③書面による贈与により取得した金銭等で証券会社等で有価証券を購入した場合には、信託受益権又は金銭等の価額のうち1,000万円まで(結婚に際して支払う金銭については300万円が限度)の金額に相当する部分の価額については、取扱金融機関の営業所等を経由して結婚・子育て資金非課税申告書を提出することにより贈与税が非課税となります。
出典:国税庁「No.4511 直系尊属から結婚・子育て資金の一括贈与を受けた場合の非課税」を元に一部筆者が加工
やや難しい言葉や表現が多いので、ポイントを解説します。
1)非課税限度額
贈与が非課税となる上限金額は1,000万円です。
ただし、1,000万円のうち結婚に係る費用は300万円が上限とされています。
では、具体的に結婚・子育てには何が含まれるでしょうか?
制度で利用できる資金の範囲を見ていきます。
2)結婚・子育て資金の範囲
この制度を活用して贈与できる資金は、大きく分けると「結婚費用」と「子育て費用」の2つです。
① 結婚費用
結婚費用には、直接的な結婚費用のほか、新居への引っ越しなどの結婚をきっかけに発生する費用も含まれます。
- 直接的な結婚費用(挙式や結婚式の費用、衣装のレンタル費用、結婚披露宴の費用など)
- 結婚をきっかけに発生する費用(引っ越し費用、敷金・礼金、仲介手数料、家賃など)
② 子育て費用
子育て費用には、妊娠から出産・子育てに掛かる費用が含まれます。
- 妊娠に必要な費用(妊婦健診や、不妊治療にかかる費用など)
- 出産に必要な費用(分娩費用や入院費、出産後のケア費用など)
- 子育てに必要な費用(小学校就学前の子供の医療費、幼稚園・保育料など)
特に、不妊治療は高額になるケースも多いため、その費用も対象に含まれることは大きな助けになります。
結婚・子育て費用の対象をまとめると、次の表のようになります。
使途 | 分類 | 資金の内容 | 要件など |
結婚費用 | 挙式・披露宴費用 | 挙式代・会場費・衣装代 | 入籍日の1年前以後に支払われたものに限る。 |
披露宴費用・会場費など | |||
結婚を機に移り住む新居関連費用 | 家賃・共益費 | 入籍日の1年前後以内に締結した賃貸借契約に関するものに限る。また、当該契約締結日から3年を経過する日までに支払われたものが対象 | |
敷金・礼金 | |||
仲介手数料・契約更新料 など | |||
引越し代 | 入籍日の1年前後以内に行ったものに限る。 | ||
子育て費用 | 妊娠に要する費用 | 人工授精など不妊治療・医薬品に要する費用 | 医薬品は、処方箋に基づくものに限る。 |
妊婦検診・妊娠に起因する疾患の治療・医薬品に要する費用 | |||
出産に要する費用 | 分べん費、入院費、新生児管理保育料、検査・薬剤料など出産のための入院から退院までに要する費用 産婦健診、出産に起因する疾患の治療・医薬 品に要する費用 |
||
産後ケアに要する費用 | 出産日から1年以内に支払われたものに限り、 6泊分または7回分が上限。 |
||
育児に要する費用 | 未就学児の子の治療、予防接種、乳幼児健診、医薬品に要する費用 | 医薬品は、処方箋に基づくものに限る。 | |
保育園、幼稚園、認定こども園、ベビーシッター業者等へ支払う入園料、保育料、施設設備費、入園試験の検定料、行事への参加や食事の提供など育児に伴って必要となる費用 |
3)贈与の時期
結婚・子育て資金の一括贈与が適用できる期間は、2015年4月1日から2023年3月末が期限です。
当初は2019年3月末が期限でした。
その後2年ずつ延長されてきましたが、今後も延長されるとは限りません。
2021年の税制改正で期間が延長されたのは、結婚・子育て費用と教育資金の一括贈与の特例で、住宅資金等の贈与は延長の対象となりませんでした。
そのため、結婚・子育て資金の一括贈与も、早めに検討することが望ましいと考えます。
4)制度利用の条件
結婚・子育て資金の一括贈与の特例を利用する際にはいくつかの条件があります。
- 贈与をする人は、直接の親や祖父母であること
- 贈与を受ける人は、20歳以上50歳未満であり、前年の合計所得が1,000万円以下であること
- 金融機関の信託口座などを通して、贈与を行うこと
- 資金を利用した場合は、金融機関に領収書などを提出すること
これらの条件は、住宅資金や教育資金の一括贈与の特例と共通したルールになっています。
詳しくはこちらの記事をご覧ください。
ただし、贈与を受ける人の条件は制度によって異なり、次のように定められています。
- 受贈者が20歳以上50歳未満であること
- 贈与を受ける年の前年分の、受贈者の所得税に係る合計所得金額が1,000万円以下であること
いくつかの条件がありますが、特例を適用することで1,000万円という大きな資産を、非課税で贈与することができます。
次に、適用する際に検討すべきことや注意点を確認していきましょう。
2. 適用する上での注意点
ここまで、結婚・子育て資金の一括贈与の特例の内容について確認してきました。
ただし、メリットだけではなく注意点もありますので、実行の際には慎重に検討しておくことが必要です。
- 親や祖父母には、子供や孫を扶養する義務があり、扶養義務の範囲であれば贈与税は発生しない(一括贈与を行いたい場合に特例を利用する)
- 目的の制約がない暦年贈与との比較検討が必要
- 贈与税・相続税が発生するケースがある
このうち、1と2についてはこちらの記事で詳しく解説していますので、合わせてお読みください。
贈与税と相続税について補足をします。
まず、以下のケースに該当した場合、贈与税が課税されることになります。
受贈者が50歳に達した時、または、金融機関との信託契約を解約した場合
いずれかに該当した場合、基本的に結婚・子育て資金の管理契約は終了します。
その際に、結婚・子育て資金口座に残額がある場合には、そのお金は親や祖父母から子供や孫に贈与されたものとして贈与税が課税されます。
つまり、「使い残し」や「目的外使用」があった場合には、最終的には贈与税が課税されてしまいます。
出典:国税庁「No.4511 直系尊属から結婚・子育て資金の一括贈与を受けた場合の非課税」より
ただし、贈与を受ける人が死亡した場合は、使い残しの金額があったとしても贈与税は課税されません。
また、贈与をする人に相続が発生した場合、つまりは亡くなった場合には、相続開始日における管理残高・使い残しの金額が相続財産に加算されます。
3. まとめ
この記事では、結婚・子育て資金の一括贈与の特例を見てきました。
制度を活用することで、最大で1,000万円を非課税で贈与することができます。
ただし、利用目的が結婚・子育て資金に限られてしまうため、実際に適用する際には、他の特例や贈与税を検討した上で選択することをお勧めします。
相続・贈与には多くの制度があり、また改正によって制度の内容も変更になります。
そのため、その時々の制度を複合的に捉えて、相続を行なっていく必要があります。
相続に関わる制度の内容を知りたい方や、相続ついて相談したい方は、ぜひ1度相続・贈与に対応しているIFAや税理士等の専門家にご相談ください。