相続においては、被相続人(死亡した人)の持っていた財産を、相続人(配偶者や子など)が、包括的に引き継ぎます。
引き継ぐ財産には、被相続人のプラスの財産である資産はもちろん、マイナスの財産である借入金などの債務も含まれます。
例えば、被相続人が事業を営んでいたような場合に、資産より債務の金額の方が多いといったケースもありえます。
その場合には、相続をしないという選択肢をとることも可能です。
この記事では、そのような場合に取りうる選択肢である相続放棄と限定承認について確認していきます。
1. 相続の方法
相続とは、被相続人(死亡した人)に帰属する財産的な権利義務が、その相続人に包括的に承継されることをいいます。
これには、被相続人のプラスの財産である資産はもちろん、マイナスの財産である借入金などの債務も含まれます。
これに対して、相続人には、単純承認、限定承認、相続放棄という受け取り方の選択肢が設けられています。
相続方法 | 効果 | 手続き |
単純承認 | 権利・義務を無制限に承継する | 相続開始を知った時から、3か月以内に限定承認または相続放棄をしなかった場合、単純承認となる(法定単純承認) |
限定承認 | 相続財産を限度として、債務を承継する | 相続開始を知った時から、3か月以内に相続人の全員で家庭裁判所に申述する |
相続放棄 | はじめから相続人でなかったとみなされる | 相続開始を知った時から、3か月以内に家庭裁判所に申述する |
一つずつ確認していきましょう。
1)単純承認
単純承認とは、プラスの財産もマイナスの財産も、全てを無制限に承継するという意思表示です。
相続人は、単純承認をしたときは、無限に被相続人の権利義務を承継する。
民法「第九百二十条(単純承認の効力)」より抜粋
借入金などの債務がある場合にも、資産の金額の方が多ければ問題にはなりません。
しかし、相続した資産よりも債務の方が多かった場合には、相続人がもともと保有していた資産から返済する必要があります。
以下の事項に該当した場合には、単純承認をしたものとみなされます(法定単純承認)。
- 相続人が相続財産を処分した場合
- 相続人が3か月以内(熟慮期間)に限定承認または相続放棄をしなかった場合
- 相続人が限定承認または相続の放棄をした後であっても、相続財産を隠匿したり、故意に相続財産の目録中に記載しなかった場合
民法「第九百二十一条(法定単純承認)」より抜粋、筆者加工
ポイントは、3か月以内に限定承認または相続放棄をしなかった場合には、自動的に単純承認をしたとみなされる点です。
そのため、単純承認をするために特別な手続は不要です。
2)限定承認
限定承認とは、相続によって得た財産の額を上限として、被相続人の債務を引き継ぐ方法です。
相続人は、相続によって得た財産の限度においてのみ被相続人の債務及び遺贈を弁済すべきことを留保して、相続の承認をすることができる。
つまり、相続した財産よりも債務の方が多かった場合には、相続した債務を上限として債務を引き継ぐことになるため、相続人がもともと保有していた固有の財産を持ち出す必要はありません。なお、債務がない場合には、問題なく財産を引き継ぐことができます。
限定承認を活用するケースは、被相続人の資産と債務がどのくらいあるか3か月の期間では全容を調べることができないような場合です。
もし、資産の方が多いときには、相続で問題は発生しません。そして、もし、資産でカバーできないほどの莫大な債務があったとしても、資産を上限として引き継ぐことになるため、問題は生じないことになります。
限定承認の手続きは、相続開始を知った時から3か月以内に相続人の全員で家庭裁判所に申述することが求められます。
相続人が数人あるときは、限定承認は、共同相続人の全員が共同してのみこれをすることができる。
民法「第九百二十三条(共同相続人の限定承認)」より抜粋
全員で手続きをしなければならない理由は、一部の相続人のみ限定承認を認めることとすれば、法律関係が極めて複雑となるためです。
3)相続放棄
相続放棄とは、はじめから相続人でなかったとする意思表示です。
相続の放棄をした者は、その相続に関しては、初めから相続人とならなかったものとみなす。
民法「第九百三十九条(相続の放棄の効力)」より抜粋
はじめから相続人でなかったものとみなしますので、代襲相続は発生しません。
代襲相続とは、相続人となる子・兄弟姉妹がすでに死亡している場合に、その子である孫・甥姪に相続権が移ることをいいます。
つまり、相続放棄をした者の子に相続権が移ることはありません。
相続放棄の手続きは、相続開始を知った時から3か月以内に家庭裁判所に申述することが求められます。
相続の放棄をしようとする者は、その旨を家庭裁判所に申述しなければならない。
民法「第九百三十八条(相続の放棄の方式)」より抜粋
2. 熟慮期間の伸長
相続開始を知った時から3か月以内という期間を、熟慮期間といいます。
限定承認または相続放棄を選択するためには、相続開始を知った時から3か月以内に家庭裁判所に申述することが求められます。
しかし、3か月という期間は、意外と短いものです。
遺産が海外にあり全体像が複雑であるような場合には、3か月では整理することが難しいことがあります。
そのような場合には家庭裁判所の審判を経て、熟慮期間を伸長することができます。
ただし、この期間(熟慮期間)は、利害関係人又は検察官の請求によって、家庭裁判所において伸長することができる。
民法「第九百十五条(相続の承認又は放棄をすべき期間)」より抜粋、筆者加工
なお、この熟慮期間の伸長の申し立てについても、相続開始を知った時から3か月以内にする必要があります。
また、この熟慮期間の伸長は認められない場合がありますので注意が必要です。
相続税の申告・納付スケジュールについては、こちらの記事で詳しく解説しています。
まとめ
この記事では、相続放棄と限定承認について取り上げてきました。
相続財産に債務が多く引き継ぐことが困難である場合、相続の全体像が短期間で掴めない場合には、相続放棄や限定承認を検討してみてください。
相続に関してお困りの場合には、相続・贈与に詳しいIFAや税理士等の専門家にご相談ください。