教育資金の一括贈与は最大で1,500万円を非課税で贈与可能

一般的な贈与の仕方には、継続的に行うことができる暦年贈与があります。

その一方で、1度に大きな金額を非課税で贈与することができる「贈与の特例」がいくつか存在します。

その1つが、教育資金の一括贈与です。

特例は教育資金以外にも、結婚・子育ての資金、住宅取得などの資金などがあり、いずれも一定額を一括贈与することができる点が特徴です。

しかし、これらの特例もメリットばかりではありません。

ポイントを押さえて実行しなければ、思わぬ課税を受けてしまう可能性があります。

この記事では、教育資金の一括贈与の内容、適用する際の注意点などを確認していきます。

1. 教育資金の一括贈与とは?

教育資金の一括贈与は、「親や祖父母が、子供や孫に対して教育費用のための資金を援助する場合に、一定の金額までは課税されない」制度です。

正式な制度名は「直系尊属から教育資金の一括贈与を受けた場合の贈与税の非課税措置」といいます。

通常、人に金銭などの財産を渡す場合には贈与税という税金が発生します。

この税金が免除されるのが、贈与の特例です。

子供が進学するときなどに、学費などを親が資金援助することは、よくあるケースです。

教育資金の一括贈与を活用すると、そういった教育資金を非課税で、生前に一括で渡しておくことができます。

 

日本では、家計が保有する資産の6割以上を、60歳以上の世代が保有しているというデータがあります。

その状況を受けて、高齢者世帯が保有している金融資産を、早期に若年層に移転することを目的に2013年4月に創設されたのが贈与の特例です。

創設した当初は、2015年12月末までの時限的な措置でしたが、税制改正で2年ずつ延長されてきました。

2021年5月時点では、2023年3月末が期限となっています。(財務省「令和3年度税制改正」より)

 

具体的な制度の内容は、国税庁のタックスアンサーに次のように記載されています。

30歳未満の方(以下「受贈者」といいます。)が、教育資金に充てるため金融機関等との一定の契約に基づき受贈者の直系尊属(父母や祖父母など。以下「贈与者」といいます。)から①信託受益権を取得した場合、②書面による贈与により取得した金銭を銀行等に預入をした場合又は③書面による贈与により取得した金銭等で証券会社等で有価証券を購入した場合には、その信託受益権又は金銭等の価額のうち1,500万円まで(学校等以外の者に支払われる金銭については、500万円を限度とします。)の金額に相当する部分の価額については、取扱金融機関の営業所等を経由して教育資金非課税申告書を提出することにより、受贈者の贈与税が非課税となります。

出典:国税庁「No.4510 直系尊属から教育資金の一括贈与を受けた場合の非課税」を元に一部筆者が加工

少し難しいと思いますので、制度の内容をかみ砕いてご説明していきます。

1)贈与の上限額

まず、贈与が非課税となる上限額は1,500万円です。

教育資金は小学校から大学卒業までで1人あたり、1,000〜2,000万円が必要になります。

そのため、1,500万円は非常に大きい金額ですが、十分ではないかもしれません。

また、贈与された教育資金は学校だけでなく、習い事にも使用することができます。

ただし、習い事への支払いは500万円が上限と定められているため、注意が必要です。

それでは、次にどのような教育資金が対象になるかを確認してみましょう。


2)教育資金の範囲

この制度を活用して贈与できる資金の範囲は、大きく分けて2つあります。

大雑把に言うと、1つは学校、もう1つは習い事です。

① 学校など

1つは、学校教育法上における「学校等」に対して支払われるものです。

例えば、保育所、認定こども園、幼稚園、小学校、中学校、高等学校、大学、大学院などに対して支払われる入学金、授業料、入園料、保育料、施設設備費、教育充実費、入学検定料、学用品費などが含まれます。

基本的には、学校等に直接支払われるものが対象ですが、一定の要件を満たす場合には学校等が費用を徴収し、業者等に支払う場合も含まれます。

② 塾や習い事

もう1つは、塾や習い事などに直接支払われる費用で、以下のようなものが対象になります。

  • 学習(学習塾・家庭教師,そろばん,キャンプなどの体験活動等)
  • スポーツ(スイミングスクール,野球チームでの指導など)
  • 文化芸術活動(ピアノの個人指導,絵画教室,バレエ教室など)
  • 教養の向上のための活動(習字,茶道など)

先ほども触れた通り、習い事などに使用できる金額は、1,500万円の枠のうち500万円が上限となっています。

以下の通り、表にまとめてみましたのでご確認ください。

(出典:文部科学省「教育資金の一括贈与に係る贈与税非課税措置について」より筆者作成)

3)贈与の時期

教育資金の一括贈与が適用できる期間は、2023年3月末が期限です。

当初は2015年12月末が期限で、2年ごとに延長されてきましたが、今後も延長されるとは限りません。

実際、住宅資金等の贈与の特例は2021年12月末が期限で、延長はされませんでした。

家計を計算して守る 住宅資金贈与のメリットと注意点をしっかり把握しよう

そのため、教育資金の贈与を考えている方は、早めに検討することをおすすめします。


4)制度利用の条件

教育資金の一括贈与の特例を利用する際には、大きく4つの条件があります。

  1. 贈与をする人は、直接の親や祖父母であること
  2. 贈与を受ける人は、50歳未満であり、前年の合計所得が1,000万円以下であること
  3. 金融機関の信託口座などを通して、贈与を行うこと
  4. 資金を利用した場合は、金融機関に領収書などを提出すること

これらの条件は、住宅資金や結婚・子育て資金の特例と同じルールになっています。

詳しくはこちらの記事をご覧ください。

田舎の田んぼで親子三世代 贈与税の特例の種類と概要まとめ|子育てや住宅取得、教育での利用を検討

ただし、贈与を受ける人は制度ごとに条件が異なります。

  • 受贈者が30歳未満であること
  • 贈与を受ける年の前年分の受贈者の所得税に係る合計所得金額が1,000万円以下であること

贈与の用途が教育資金であることから、年齢と収入に上限があることが分かります。

ここまで、教育資金の一括贈与の制度について確認してきました。

いくつか満たすべき要件はありますが、適用することで1,500万円という大きな金額を非課税で贈与することができる制度です。

最後に、適用する際に検討すべきことや注意点を確認していきましょう。

2. 適用する際の注意点

教育資金の特例を適用する場合には、次の3つを認識しておく必要があります。

  1. 親や祖父母には、子供や孫に教育を受けさせる義務があり、義務の範囲であればそもそも贈与税は発生しない(特例は、一括贈与を行いたい場合に利用する)
  2. 教育資金以外にも使用する場合は、暦年贈与の利用を検討する
  3. 贈与税・相続税が発生するケースがある

このうち、1と2についてはこちらの記事で詳しく解説しています。

田舎の田んぼで親子三世代 贈与税の特例の種類と概要まとめ|子育てや住宅取得、教育での利用を検討

ここでは、贈与税と相続税について補足します。

① 贈与税

まず、この制度を適用して非課税で贈与を行なった後に、贈与税が発生するケースがあります。

  1. 贈与を受ける人が30歳に達したとき
  2. 金融機関との信託契約を解約したとき

このいずれかに該当する場合は、残っている金額が贈与税の課税対象となります。

つまり、「使い残し」があった場合には、最終的には贈与税が発生します。

(出典:文部科学省「教育資金の一括贈与に係る贈与税非課税措置について」)

このことは、制度の目的を考えたときに当然だと言えます。

ただし、贈与を受けた人が30歳になった場合でも、次のように教育を継続している場合には特例を継続することができます。

  • 学校などに在籍している場合
  • 教育訓練給付金の支給対象となる、教育訓練を受講している場合

このケースに該当する場合は、学校などに在籍しなくなった年の翌年12月31日、または贈与を受ける人が40歳に達する日のいずれか早い日に、教育資金管理契約が終了することとなります。

また、贈与を受けた人が死亡した場合は、残金があったとしても贈与税は課税されません。


② 相続税

贈与をする人に相続が発生した、つまり亡くなった場合は、相続開始前3年以内に教育資金一括贈与を行なっている場合は、その管理残高である残金が相続財産に加算されます。

この制度は2021年度税制改正により決定され、2021年年4月1日以降に贈与した金銭が対象となります。

ただし、相続が発生した日において、相続を受ける人が学校などに在学している場合には、相続税は課税されません。

まとめ

この記事では、教育資金一括贈与の特例を確認してきました。

この制度を活用することで、生前に最大で1,500万円を非課税で贈与することができます。

ただし、利用目的が教育資金に限られてしまうため、実際に適用する際には、他の特例や贈与税を検討した上で選択することをお勧めします。

相続・贈与には多くの制度があるため、複合的に考えて相続対策を行なっていく必要があります。

そのため、相続や相続後の資産の運用について不安がある方や相談したい方は、ぜひ1度相続・贈与に対応しているIFAや税理士等の専門家にご相談ください。


 

秘密証書遺言はメリットが希薄化?法務局管理制度による影響を確認!

秘密証書遺言では、言葉の通り遺言の内容を秘密にすることができる遺言です。

ただし、法律の専門家である公証人によって、遺言の存在が保証されています。

そのため、元々は自筆証書遺言と公正証書遺言の「いいとこどり」の性質をもった制度でした。

しかし、2020年に自筆証書遺言の法務局保管制度が創設されたことで、秘密証書遺言のメリットは薄くなってしまいました。

秘密証書遺言とはどのような制度か、どのようなメリット・デメリットがあるかを見ていきましょう。

1. 秘密証書遺言とは?

まず「秘密証書遺言」とは、どのような制度か確認してみましょう。

民法では、次のように定められています。

秘密証書によって遺言をするには、次に掲げる方式に従わなければならない。

  1. 遺言者が、その証書に署名し、印を押すこと。
  2. 遺言者が、その証書を封じ、証書に用いた印章をもってこれに封印すること。
  3. 遺言者が、公証人一人及び証人二人以上の前に封書を提出して、自己の遺言書である旨並びにその筆者の氏名及び住所を申述すること。
  4. 公証人が、その証書を提出した日付及び遺言者の申述を封紙に記載した後、遺言者及び証人とともにこれに署名し、を押すこと。

民法「第九百七十条 秘密証書遺言」より抜粋、筆者強調表示

補足を付け加えながら、ポイントを整理します。

  1. 遺言を残す人は、遺言を作成し署名と押印を行います。自筆証書遺言は、自筆で遺言を記載する必要がありますが、秘密証書遺言ではパソコンや代筆も認められています

  2. 遺言を残す人は、作成した遺言を封筒に入れ、封をした箇所に遺言に押印したものと同じ印鑑で押印をします。

  3. 遺言を作成したら、遺言を残す本人が証人となる人を2名以上連れて公証役場へ行き、公証人と証人の前で自分の遺言書であることを申し伝えます。

  4. 公証人は、遺言を提出した日付と遺言者から聞いた内容を記入し、封をします。そして、遺言者と証人はその封紙に署名と押印を行います。

これで、秘密証書遺言の完成です。

秘密証書遺言が自筆証書遺言と異なる最も大きいポイントは、3つ目以降の公証人の前で証人とともに遺言があることを明らかにする点です。

公証人とは、裁判官などの法務実務に30年以上携わってきた人の中から、法務大臣によって任命された公務員です。

そのため、公証人による承認は法的な効力を持ちます。

また、秘密証書遺言を認めてもらうためには、証人を連れていく必要がありますが、その証人は誰でも良いわけではなく、一定の条件があります。

具体的には、次に該当する人は証人になることはできません。

次に掲げる者は、遺言の証人又は立会人となることができない。

  1. 未成年者
  2. 推定相続人及び受遺者並びにこれらの配偶者及び直系血族
  3. 公証人の配偶者、四親等内の親族、書記及び使用人

民法「第九百七十四条 証人及び立会人の欠格事由」より抜粋

やや言葉が難しいですが、2つ目に記載されている内容は、遺言を残す人の配偶者や子供・実の両親など近い親族では証人になることができないということです。

そのため、2名以上の証人を選ぶことや、協力をお願いすることに苦労するケースも多いようです。

このように秘密証書遺言は要件に厳しい部分があります。

ただし、公証人による記録などの要件を満たすことができなかった場合でも、自筆証書遺言としての効力を持つ可能性があります。

秘密証書による遺言は、前条に定める方式に欠けるものがあっても、第九百六十八条に定める方式を具備しているときは、自筆証書による遺言としてその効力を有する。

民法「第九百七十一条 方式に欠ける秘密証書遺言の効力」より抜粋

厳しい要件に対するセーフティネットとしての規定だと考えられますが、適用されるには自筆証書遺言の要件を満たしている必要があるため注意が必要です。

例えば、秘密証書遺言はパソコンや代筆でも認められますが、自筆証書遺言は自筆である必要があるため、現実には認められないことも多いと考えられます。

書き損じなどをしてしまった部分の修正

手書きしている途中で「書き損じ」をしてしまうことや、完成後に一部を修正したいこともあると思います。

その場合は、適切な方法で修正を行う必要があります。

2 第968条第3項の規定(筆者注:自筆証書遺言中の加除その他変更に係る条項)は、秘密証書による遺言について準用する。

民法「第九百七十条 秘密証書遺言」より抜粋、筆者注釈

つまり、秘密証書遺言を修正する場合は、自筆証書遺言と同様の修正が必要だということです。

具体的な修正方法も含め、自筆証書遺言についてはこちらの記事で詳しく解説しています。

自筆証書遺言は手軽だが注意が必要?法務局保管制度を活用!

ここからは、秘密証書遺言のメリット・デメリットを確認していきます。

2. 秘密証書遺言のメリット

秘密証書遺言の最大のメリットは、遺言の内容を秘密にしたまま、遺言の存在を明確にしてもらえる点です。

遺言の内容を秘密にすることは、自分で遺言を作成して保管しておく自筆証書遺言であっても可能です。

しかし、自筆証書遺言は自宅などで保管することとなるため、遺言自体が紛失してしまったり、相続する人が遺言を見つけて、破棄・変造してしまうケースがありました。

そのようなことを防ぐためには、公正証書遺言があります。

公正証書遺言は、遺言を残す人が公証人の前で遺言の内容を口述して公証人が筆記して作成する遺言で、公証役場に遺言の原本が保管されるため、遺言が確実に残されます。

しかし、遺言を口述する際に証人も立ち会うため、内容は証人にも知れてしまい、完全に秘密にすることはできません。

そのため、遺言の内容を誰にも知られることなく、遺言の存在を明らかにすることができる秘密証書遺言は「いいとこどり」の制度という表現を使いました。

このメリットは今でも変わりませんが、2020年7月に「自筆証書遺言の法務局保管制度」が創設されたことによって、秘密証書遺言を選択する理由はあまりなくなってしまいました。

この制度は、自筆証書遺言を法務局に保管してもらうことができる制度です。

自筆証書遺言で法務局保管制度を活用する場合には、証人が不要であるため秘密を守ることができます。

さらに、法務局に原本を保管してもらえるため、遺言の紛失・破棄・変造といったリスクも防ぐことができます。

そのため、今後遺言を残す場合には、自筆証書遺言または公正証書遺言を選択することが望ましいと考えます。

それぞれの遺言について、詳しく知りたい方はこちらの記事を合わせてお読みください。

計画的な貯蓄を 遺言の種類「自筆証書遺言」は手軽だが注意が必要
法律と書籍 遺言の種類「公正証書遺言」は安全・確実な方法

最後に、念のために秘密証書遺言のデメリットも見ていきます。

3. 秘密証書遺言のデメリット

秘密証書遺言のデメリットは、大きく3つです。

  1. 遺言が無効となる可能性
  2. 家庭裁判所の検認が必要
  3. 紛失・偽造・変造のリスク

1)無効となる可能性

先ほど民法を解説したように、秘密証書遺言の形式は明確に定められています。

そのため、法律が求める形式を満たさなかった場合、遺言が無効とされることがあるため、作成には細心の注意が必要です。

2)家庭裁判所の検認が必要

自筆証書遺言と同様、遺言を残した人が亡くなった後に「家庭裁判所の検認」を行う必要があります。

検認とは、相続人が家庭裁判所に出向いて、出席した相続人の立ち会いのもと、裁判官が遺言を開封する手続きです。(自宅で遺言を開封した場合などは、無効になる可能性があります。)

そして、家庭裁判所の検認手続きには約1か月~2か月程度の期間を要し、相続人が実際に家庭裁判所に行く必要があることから、特に遠方にいる場合などは相続人にとって大きな負担となる可能性があります。

3)紛失・偽造・変造のリスク

公証人および証人が遺言の存在を明らかにしているとはいえ、秘密証書遺言の保管場所は一般的には自宅や貸金庫などです。

そのため、遺言自体が紛失されてしまう可能性があります。

また、相続人などに遺言を偽造、変造、破棄などをされてしまうといった可能性もゼロではありません(リスクの度合いは、自筆証書遺言に比べると低いとは考えられます)。

3つのデメリットのうち、②と③は自筆証書遺言の法務局保管制度を活用することで回避することができます。

そのため、今後はあえて秘密証書遺言を使う場面はかなり限られているのではないかと考えられます。

まとめ

この記事では、遺言の1つである「秘密証書遺言」を見てきました。

秘密証書遺言は、遺言の内容を秘密にしたまま遺言の存在を明確にできるという特徴がありますが、自筆証書遺言の法務局保管制度が創設されたため、秘密証書遺言を選択するメリットは薄くなってしまいました。

今後、遺言を作成するときには、希望する遺言の残し方に合わせて「自筆証書遺言(法務局保管)」と「公正証書遺言」を検討するところから始めることをお勧めします。

相続や、相続後の資産の運用について不安がある方や相談したい方は、ぜひ一度相続・贈与に対応しているIFAや税理士等の専門家にご相談ください。


 

相続税は必ず発生する?相続税の計算方法をチェック!

相続が発生した場合には、10ヶ月以内に相続税を申告・納税しなければなりません。

ところで、亡くなった人に資産がある場合、相続税は必ず発生するのでしょうか?

基礎控除といって、課税対象から差し引くことができる金額があるため、必ず発生するわけではありません。

この記事では、どのような流れで相続税を計算していくかを確認していきましょう。

1. 相続税の計算方法

相続税とは、相続人が遺産を受け継いだときに、受け継いだ人にかかる税金です。

相続や遺言によって財産を取得した場合に、その取得した財産に課税されます。

相続税の計算方法はやや複雑ですが、次の流れで行われます。

  1. 課税価格の合計額を計算する
  2. 相続開始前3年以内に贈与した財産を加算する
  3. 相続時精算課税制度を適用して贈与した財産を加算する
  4. 相続税の基礎控除を控除する
  5. 法定相続分で分けた場合の各人の取得額と税額を算出する
  6. 相続税の総額を計算する
  7. 実際の取得割合に応じて相続税の総額を按分する
  8. 2割加算対象者がいれば税額を2割加算する
  9. 各種の税額控除を差し引く

それでは、それぞれのステップを確認していきましょう。

1)課税価格の合計額を計算する

まずは、被相続人の課税価格の合計額を計算します。

課税価格の合計額に含まれる財産には、金銭として見積もることができる経済的価値のあるすべてのものが含まれます。

具体的には、以下の計算を行います。

  1. 本来の相続財産を算出する
  2. みなし相続財産を加算する
  3. 非課税財産を差し引く
  4. 債務および葬式費用を差し引く

それぞれどのようなものが該当するのか、確認していきましょう。

① 本来の相続財産

本来の相続財産とは、相続・遺贈等で取得した現金、預貯金、有価証券、土地、家屋、美術品、貸付金、特許権、電話加入権などをいいます。

相続財産が現金、預貯金、上場株式等などであれば自分で評価をすることもできるかと思いますが、不動産や非上場株式などについては評価の仕方がイメージしづらいと思います。

財産の評価方法は、国税庁「財産評価」に規定されていますが、複雑なものも多いので、お困りの際には税理士等の専門家にご相談ください。


② みなし相続財産

みなし相続財産とは、相続・遺贈等で取得したとみなされる財産です。

被保険者(亡くなった方)が加入していた生命保険による死亡保険金や、勤務していた会社からの死亡退職金などが含まれます。

これらは、相続が開始したときに被相続人が所有していたわけではないので本来の相続財産ではありませんが、相続税を課税するべき性質であるため、みなし相続財産として相続財産に含まれます。


③ 非課税財産

相続税法に規定される非課税財産は、相続税の課税財産に含みません。

代表的な非課税財産は、以下の通りです。

  1. 墓地や墓石、仏壇、仏具など日常礼拝の対象とされている財産(但し、骨董的な価値があるものなどは相続税がかかります)
  2. 宗教、慈善、学術などの公益事業を行う者が、公益目的事業に使用するもの
  3. 死亡保険金等のうち非課税限度額(500万円に法定相続人の数を掛けた金額)までの金額
  4. 死亡退職金等のうち非課税限度額(500万円に法定相続人の数を掛けた金額)までの金額
  5. 相続等によって取得した財産で、相続税の申告期限までに国や公益法人等に寄付したもの

墓地、墓石、仏具などは、相続税の非課税財産とされています。ですが、投資の対象になるようなものには相続税がかかります。

純金の仏具を購入することにより相続税対策をするといった話もありますが、上記の理由から税務署から指摘を受ける可能性は否定できません。

また、相続税が課税されなかったとしても、後になって再販売しようとする際の価格は半値以下に減少することが多いとされますのであまりおススメはできません。

 

死亡保険金、死亡退職金等については、非課税限度額(500万円×法定相続人の数)までは、非課税となります。

資金に余裕がある場合には、相続対策の第一歩として生命保険を検討することをおススメします。


④ 債務および葬式費用

債務および葬式費用は、課税財産から差し引くことができます。

債務とは、相続開始の際に存在するもので、確実であると認められるものが対象となります。

例えば、銀行借入や、固定資産税・住民税などの未払金が該当します。

葬式費用として課税財産から差し引くことができるものには、以下があります。

  1. 火葬、埋葬、納骨をするためにかかった費用
  2. 遺体、遺骨の回送にかかった費用
  3. 葬式の前後に生じた費用で通常葬式にかかせない費用(例えば、お通夜の費用など)
  4. 4 葬式に当たりお寺などに対して読経料などのお礼をした費用(いわゆる、お布施)
  5. 死体の捜索、死体や遺骨の運搬にかかった費用

国税庁・タックスアンサー「No.4129 相続財産から控除できる葬式費用」より抜粋

ただし、以下に該当するものは葬式費用に該当しませんので注意が必要です。

  1. 香典返し
  2. 墓石、墓地の購入費用
  3. 初七日や法事などの法要のための費用

国税庁・タックスアンサー「No.4129 相続財産から控除できる葬式費用」より抜粋

葬式関連の費用であれば、無制限に葬式費用に認められるわけではないのでご注意ください。

 

①〜④をまとめると、課税価格の合計額は次のようになります。

※相続人が配偶者と子供2人の計3人の場合

種別 財産の種類 金額
①本来の相続財産 現金・預貯金 4,000万円
土地 5,000万円
建物 3,000万円
貸付金 800万円
②みなし相続財産 生命保険金 1,500万円
③非課税財産 生命保険金の非課税限度額 ※ △1,500万円
④債務・葬式費用 葬儀費用 △200万円
借入 △800万円
合計 1億 1,800万円
※生命保険金の非課税限度額:1,500万円 = 500万円 × 法定相続人3名

2)相続開始前3年以内に贈与した財産を加算する

被相続人が、相続開始前3年以内に、相続人に対して贈与した財産がある場合には、その生前贈与をなかったものとして課税対象に加え、相続税を計算します。

この規定は、相続発生の直前に駆け込みで贈与をすることで、相続税を減らすことを防ぐためにあります。

受贈者 贈与の時期 金額
長男 相続開始の2年前 1,000万円

なお、贈与時には、長男は贈与税210万円を納税しているものとします。

この贈与税は後述の「9)税額控除」によって差し引くことができます。

相続開始前3年以内の贈与額を加算した課税価格

1)課税価格の合計:1億1,800万円 + 贈与額:1,000万円 = 1億 2,800万円


3)相続時精算課税制度を適用して贈与した財産を加算する

60歳以上の父母・祖父母から、20歳以上の子供・孫に対して、贈与を行う場合には、相続時精算課税制度という制度を利用して贈与することができます。

相続時精算課税制度とは、読んで字のごとく「相続が起こった時に課税を精算する」という性質の生前贈与の制度です。

 

相続時精算課税制度を利用して贈与すると、贈与時には合計額が2,500万円になるまで贈与税が課税されません。

そして、相続が発生した際に、相続税によって精算することになります。

そのため、生前に相続時精算課税制度で贈与をした財産があれば、その金額を加算する必要があります。

受贈者 金額
次男 2,000万円

 

なお、このケースでは相続時精算課税制度での贈与金額が2,500万円以下であるため、贈与時には贈与税は発生していません。

相続時精算課税制度の贈与額を加算した課税価格

2)相続開始前3年以内の加算まで計算した課税価格の合計:1億 2,800万円

 + 相続時精算課税制度を適用した贈与額:2,000万円 = 1億 4,800万円

この金額が課税価格の合計額になります。

また、相続時精算課税制度については、こちらの記事で詳しく説明しています。

孫に財産を引き継ぐ 贈与税とは?相続時精算課税制度による贈与を確認してみよう

4)相続税の基礎控除を控除する

ここまでで計算してきた課税価格の合計額から、相続税の基礎控除額を控除し、課税遺産の総額を求めます。

 

課税遺産総額 = 課税価格の合計額 - 基礎控除額

相続税の基礎控除額は、以下の計算式で算出します。

 

基礎控除額 = 3,000万円 + 600万円 × 法定相続人の数

この時点で課税財産の合計額が、相続税の基礎控除額を下回っている場合には、相続税が課税されません。

その場合には、相続税の申告書を提出する必要はありません。

 

課税遺産総額

3)課税価格の合計額:1億 4,800万円

 ー 基礎控除額:4,800万円(3,000万円 + 600万円 × 法定相続人3人)= 1億円


5)法定相続分で分けた場合の各相続人の取得額と税額を算出する

上記で求めた課税遺産総額を、法定相続分で分けたものとした場合の各相続人ごとの取得額と相続税額を算出します。


国税庁「相続税の申告の仕方」より抜粋

まず、法定相続分に基づいて法定相続金額を算出します。

各人の法定相続金額を算出すると、上記の表に照らし合わせて税額を算出することができます。

相続人 法定相続分 法定相続金額 相続税額 計算方法
1/2 5,000万円 800万円 5,000万円 × 税率20% ー 控除額200万円
長男 1/4 2,500万円 325万円 2,500万円 × 税率15% ー 控除額50万円
次男 1/4 2,500万円 325万円

6)相続税の総額を計算する

上記で計算した各相続人の相続税額を合計して、相続税の総額を計算します。

相続税の総額

妻:800万円 + 長男:325万円 + 次男:325万円 = 1,450万円


7)実際の取得割合に応じて相続税の総額を按分する

ここまで法定相続分を元に計算を行ってきましたが、ここで実際の取得割合に応じて相続税の総額を按分して、各人の税額を求めます。

実際の相続では、遺言の定め等によって相続人と相続分などを指定することができます。ここでは、法定相続人ではない孫にも一部相続を行うものとします。

相続人 実際の取得額 取得割合 相続税額 計算方法
6,000万円 60% 870万円 6)相続税の総額1,450万円 × 取得割合
長男 1,000万円 10% 145万円
次男 2,000万円 20% 290万円
孫(長男の息子) 1,000万円 10% 145万円

8)相続税額の2割加算の対象者がいれば相続税額を加算する

相続人の中に、相続税額の2割加算の対象者がいれば相続税を1.2倍します。

相続等によって財産を取得した人が、被相続人の一親等の血族(子が死亡している場合には孫を含みます)および配偶者以外である場合には、その人の相続税額にその2割に相当する金額が加算されます。

例えば、通常、相続により孫に財産がわたるまでには、「本人から子へ」「子から孫へ」と2回の相続を経て、相続税を2回負担する必要があります。

それに対して、本人から孫へと遺言により無償で渡した場合(遺贈)には、相続税を1回負担するのみで孫まで財産をわたすことができ、1回分の相続税負担を回避することができます

このような不公平をなくすことを目的として、一親等の血族と配偶者以外に相続で財産を取得させる場合には相続税額を1.2倍します。

 

先ほどの例では、孫が2割加算に該当しますので、孫の税額は次のようになります。

 

孫の税額:145万円×1.2=174万円


9)各種の税額控除を差し引く

相続税の税額控除には、贈与税額控除や配偶者控除などがあります。

ここでは相続税の税額控除の内、一部を紹介します。

①贈与税額控除

前述の通り、被相続人が相続開始前3年以内に相続人に対して贈与した財産がある場合には、その生前贈与の金額を課税財産の合計額に加算します。

一方で、その贈与について贈与税が課されているときには、相続税との二重課税となってしまいますので、それを防ぐために贈与税額を相続税額から控除します。

一点、注意が必要ですが、控除できる贈与税額が相続税額を上回っている場合でも、税額の還付を受けることはできません。


②配偶者の税額軽減

配偶者の税額軽減とは、被相続人の配偶者が相続等により取得した財産が、次の金額のどちらか多い金額までは配偶者に相続税はかからないという制度です。

  • 1億6千万円
  • 配偶者の法定相続分相当額

税額控除を含め、最終的に各人が納付する税額は次のようになります。

相続人 相続税の納付税額 補足
0円 配偶者控除により
長男 0円 2)で納付している贈与税210万円が税額控除の対象になる
次男 290万円  
孫(長男の息子) 174万円 相続税額の2割加算の対象となる

以上が、相続税計算の一連の流れです。

相続税の税額控除については、以下の記事で詳しく解説しています。

相続税の税額控除の種類と控除できる金額を解説!

まとめ

この記事では、相続税の計算方法について取り上げてきました。

相続税の計算方法は少し複雑なように見えるかもしれませんが、それぞれの計算には意味があるので、その点を意識するとスッキリと理解できるかもしれません。

ただし、実際の相続にあたっては、非課税の対象となるのか?いくら控除できるのか?など疑問を持つことも多いと思います。

相続に関してお困りの場合は、相続・贈与に詳しいIFAや税理士等の専門家にご相談ください。


 

相続税の税額控除の種類と控除できる金額を解説!

相続税を計算する上で、一定のケースに該当する場合には、相続税額から税額を差し引くことができます。

これを相続税の税額控除といいます。

相続税の税額控除には、贈与税額控除など一定の場合に税負担を調整する性質のものと、相続人が配偶者・未成年者・障害者など特定の人であった場合に適用されるものがあります。

この記事では、相続税の税額控除の内容について確認していきます。

1. 相続税の税額控除

相続税の税額控除には、さまざまな種類があります。

この記事では、以下の税額控除について説明していきます。

  1. 贈与税額控除(歴年贈与)
  2. 配偶者の税額軽減
  3. 未成年者控除
  4. 障害者控除
  5. 相次相続控除
  6. 外国税額控除

それぞれの内容や控除額を確認していきましょう。

1)贈与税額控除(暦年贈与)

贈与税額控除(暦年贈与)とは、相続開始前3年以内の贈与にかかる贈与税額を相続税額から控除するものです。

相続税を計算する際に、被相続人が相続開始前3年以内に相続人に対して贈与した財産がある場合には、その生前贈与の金額を課税財産の合計額に加算します。

これは、相続発生の直前に駆け込みで贈与を行い相続税を回避することを防ぐための措置です。

一方で、その贈与について贈与税が課されているときには、相続税との二重課税となってしまうため、それを防ぐために贈与税額を相続税額から控除します。

贈与税額控除(暦年贈与)を受けるためには、相続税申告書に、相続開始前3年以内に受けた贈与財産の価額、贈与税の税額、贈与税申告書の提出先の税務署名などを記載することが必要です。

控除できる税額

控除できる税額は、相続税の課税価格に加算された贈与財産に係る贈与税の税額です。

ただし、加算税、延滞税、利子税の額は含まれません。

歴年贈与については、こちらの記事で詳しく解説しています。

贈与税を計算する 贈与税とは?いつ発生するか、贈与が認められないケースと防衛策

2)配偶者の税額軽減

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配偶者の税額軽減とは、配偶者が負担する相続税額を大きく軽減することができる制度です。

配偶者の相続税額が軽減される理由には、主には以下の3つがあげられます。

  1. 被相続人の財産形成に対する配偶者の貢献に報いるため
  2. 配偶者の生活保障のため
  3. 将来配偶者に相続が発生した際にも、相続税が課税されることとなるため

適用するためには、相続税申告書に遺産分割協議書の写しなど、配偶者の取得した財産が分かる書類を添付して提出することが必要です。

軽減できる金額

配偶者の税額軽減を適用した場合、配偶者が相続等により取得した財産が、以下の金額のどちらか多い金額までは相続税はかかりません。

  • 1億6千万円
  • 配偶者の法定相続分相当額

配偶者の税額軽減は、配偶者が相続等で実際に取得した財産を基準に計算します。

そのため、未分割である財産は対象になりません。

ただし、相続税の申告書に「申告期限後3年以内の分割見込書」を添付しておき、申告期限から3年以内に分割したときは税額軽減の対象になります。


3)未成年者控除

一定の未成年者が相続により財産を取得する場合には、税額控除を受けることができます。

未成年者控除を受けるためには、

  1. 相続等により財産を取得するときに、20歳未満であること
  2. 法定相続人であること

といった要件を満たす必要があります。

なお、民法における成年年齢の引き下げを受け、2022年4月1日以降の相続等において、1.は「相続等により財産を取得するときに18歳未満であること」という要件となります。

また、未成年者控除の金額がその未成年者の相続税額より多い場合、控除しきれない金額はその者の扶養義務者の相続税額から控除することができます。

控除できる金額

下記の計算式により、控除できる税額を算出します。

10万円 ×(20歳 – 相続人の年齢)

※20歳:2022年4月1日以降の相続等においては「18歳」となります
※相続人の年齢:1年未満の端数は切り捨て


4)障害者控除

障害者控除とは、相続人が85歳未満の障害者の場合に、相続税の額から一定の金額を控除することができる制度です。

障害者控除を受けるためには、

  1. 相続等により財産を取得した時に障害者である
  2. 相続等により財産を取得した人が法定相続人である

といった要件を満たす必要があります。

なお、障害者控除の金額がその障害者の相続税額より多い場合、未成年者控除と同様に、その控除しきれない金額はその者の扶養義務者の相続税額から控除することができます。

控除できる金額

下記の計算式により、控除できる税額を算出します。

一般障害者:10万円 ×(85歳 – 相続人の年齢)

特別障害者:20万円 ×(85歳 – 相続人の年齢)

※相続人の年齢:1年未満の端数は切り捨て

特別障害者と一般障害者は、障害がどの程度かにより分類されます。

特別障害者には、身体障害者手帳1~2級、精神障害者手帳1級などが該当し、一般障害者には、身体障害者手帳3~6級、精神障害者手帳2~3級などが該当します。

詳しくは、国税庁・タックスアンサー「No.1160 障害者控除」をご確認ください。


5)相次相続控除

相次相続控除とは、短期間に相続が連続した場合、相続税の負担が過重になってしまうため、負担を調整するために存在する規定です。

相続開始前10年以内に被相続人が相続等によって財産を取得し、その際に相続税が課税されていた場合には、相続人の相続税額から一定の金額を控除することとなります。

相次相続控除を受けるためには、

  1. 被相続人の相続人であること
  2. 今回の相続の開始前10年以内に開始した相続で、被相続人が財産を取得していること
  3. その際に被相続人に対し相続税が課税されたこと

という要件を満たす必要があります。

国税庁・タックスアンサー「No.4168 相次相続控除」より抜粋

控除できる金額

各相続人の相次相続控除の金額は、次の算式により計算します。

A × C / (B-A) × D / C × (10-E) / 10

A:今回の被相続人が、前回の相続の際に負担した相続税額
B:今回の被相続人が、前回の相続の時に取得した純資産価額(取得財産の価額+相続時精算課税適用財産の価額-債務及び葬式費用の金額)
C:今回の相続等によって財産を取得したすべての人の純資産価額の合計額
D:今回のその相続人の純資産価額
E:前回の相続から今回の相続までの期間(1年未満切り捨て)

※C / (B-A)の計算結果が100/100を超えるときには、100/100とします。

数式は難解ですが、ざっくりいうと、前回の相続税を毎年10%の割合で逓減させた金額を、今回の相続税額から控除するというイメージです。


6)外国税額控除

相続等により、国外財産を取得した場合において、その財産について所在する国の相続税等が課税されている場合には、日本とその国とで二重に課税することになります。

このような国際的な二重課税を防ぐためにある制度が、外国税額控除です。

外国税額控除を受けるためには、

  1. 相続等により財産を取得したこと
  2. 財産が国外に所在すること
  3. その財産の所在国において相続税に相当する税が課税されたこと

といった要件を満たす必要があります。


控除できる金額

外国税額控除として控除できる金額は、外国の法令により課税された相続税に相当する税額となります。

ただし、下記の算式の金額が上限となります。

贈与税額控除から相次相続控除までを控除した後の相続税額
 × 国外財産の価額
 ÷ 相続税の課税価格の基礎に算入された価格

国税庁・タックスアンサー「No.1240 居住者に係る外国税額控除」より抜粋

 

まとめ

この記事では、相続税の税額から差し引くことができる税額控除について取り上げてきました。

税額控除の中には、計算が複雑なものもいくつかあります。

また、実際に控除を受けるにあたっては、法律に定められた必要資料を添付して、控除の内容を申告書にしっかりと記載することを求められます。

そのため、実際の相続においてお困りの場合には、相続・贈与に詳しいIFAや税理士等の専門家にご相談ください。


 

相続放棄と限定承認|遺産に債務があるときは要注意?

相続においては、被相続人(死亡した人)の持っていた財産を、相続人(配偶者や子など)が、包括的に引き継ぎます。

引き継ぐ財産には、被相続人のプラスの財産である資産はもちろん、マイナスの財産である借入金などの債務も含まれます。

例えば、被相続人が事業を営んでいたような場合に、資産より債務の金額の方が多いといったケースもありえます。

その場合には、相続をしないという選択肢をとることも可能です。

この記事では、そのような場合に取りうる選択肢である相続放棄と限定承認について確認していきます。

1. 相続の方法

相続とは、被相続人(死亡した人)に帰属する財産的な権利義務が、その相続人に包括的に承継されることをいいます。

これには、被相続人のプラスの財産である資産はもちろん、マイナスの財産である借入金などの債務も含まれます。

これに対して、相続人には、単純承認、限定承認、相続放棄という受け取り方の選択肢が設けられています。

相続方法 効果 手続き
単純承認 権利・義務を無制限に承継する 相続開始を知った時から、3か月以内に限定承認または相続放棄をしなかった場合、単純承認となる(法定単純承認)
限定承認 相続財産を限度として、債務を承継する 相続開始を知った時から、3か月以内に相続人の全員で家庭裁判所に申述する
相続放棄 はじめから相続人でなかったとみなされる 相続開始を知った時から、3か月以内に家庭裁判所に申述する

一つずつ確認していきましょう。

1)単純承認

単純承認とは、プラスの財産もマイナスの財産も、全てを無制限に承継するという意思表示です。

相続人は、単純承認をしたときは、無限に被相続人の権利義務を承継する。

民法「第九百二十条(単純承認の効力)」より抜粋

借入金などの債務がある場合にも、資産の金額の方が多ければ問題にはなりません。

しかし、相続した資産よりも債務の方が多かった場合には、相続人がもともと保有していた資産から返済する必要があります。

以下の事項に該当した場合には、単純承認をしたものとみなされます(法定単純承認)。

  1. 相続人が相続財産を処分した場合
  2. 相続人が3か月以内(熟慮期間)に限定承認または相続放棄をしなかった場合
  3. 相続人が限定承認または相続の放棄をした後であっても、相続財産を隠匿したり、故意に相続財産の目録中に記載しなかった場合

民法「第九百二十一条(法定単純承認)」より抜粋、筆者加工

ポイントは、3か月以内に限定承認または相続放棄をしなかった場合には、自動的に単純承認をしたとみなされる点です。

そのため、単純承認をするために特別な手続は不要です。


2)限定承認

限定承認とは、相続によって得た財産の額を上限として、被相続人の債務を引き継ぐ方法です。

相続人は、相続によって得た財産の限度においてのみ被相続人の債務及び遺贈を弁済すべきことを留保して、相続の承認をすることができる。

民法「第九百二十条(限定承認)」より抜粋

つまり、相続した財産よりも債務の方が多かった場合には、相続した債務を上限として債務を引き継ぐことになるため、相続人がもともと保有していた固有の財産を持ち出す必要はありません。なお、債務がない場合には、問題なく財産を引き継ぐことができます。

限定承認を活用するケースは、被相続人の資産と債務がどのくらいあるか3か月の期間では全容を調べることができないような場合です。

もし、資産の方が多いときには、相続で問題は発生しません。そして、もし、資産でカバーできないほどの莫大な債務があったとしても、資産を上限として引き継ぐことになるため、問題は生じないことになります。

限定承認の手続きは、相続開始を知った時から3か月以内に相続人の全員で家庭裁判所に申述することが求められます。

相続人が数人あるときは、限定承認は、共同相続人の全員が共同してのみこれをすることができる。

民法「第九百二十三条(共同相続人の限定承認)」より抜粋

全員で手続きをしなければならない理由は、一部の相続人のみ限定承認を認めることとすれば、法律関係が極めて複雑となるためです。


3)相続放棄

相続放棄とは、はじめから相続人でなかったとする意思表示です。

相続の放棄をした者は、その相続に関しては、初めから相続人とならなかったものとみなす。

民法「第九百三十九条(相続の放棄の効力)」より抜粋

はじめから相続人でなかったものとみなしますので、代襲相続は発生しません。

代襲相続とは、相続人となる子・兄弟姉妹がすでに死亡している場合に、その子である孫・甥姪に相続権が移ることをいいます。

つまり、相続放棄をした者の子に相続権が移ることはありません。

相続放棄の手続きは、相続開始を知った時から3か月以内に家庭裁判所に申述することが求められます。

相続の放棄をしようとする者は、その旨を家庭裁判所に申述しなければならない。

民法「第九百三十八条(相続の放棄の方式)」より抜粋

2. 熟慮期間の伸長

相続開始を知った時から3か月以内という期間を、熟慮期間といいます。

限定承認または相続放棄を選択するためには、相続開始を知った時から3か月以内に家庭裁判所に申述することが求められます。

しかし、3か月という期間は、意外と短いものです。

遺産が海外にあり全体像が複雑であるような場合には、3か月では整理することが難しいことがあります。

そのような場合には家庭裁判所の審判を経て、熟慮期間を伸長することができます。

ただし、この期間(熟慮期間)は、利害関係人又は検察官の請求によって、家庭裁判所において伸長することができる。

民法「第九百十五条(相続の承認又は放棄をすべき期間)」より抜粋、筆者加工

なお、この熟慮期間の伸長の申し立てについても、相続開始を知った時から3か月以内にする必要があります。

また、この熟慮期間の伸長は認められない場合がありますので注意が必要です。

相続税の申告・納付スケジュールについては、こちらの記事で詳しく解説しています。

相続税はいつまでに申告・納付が必要?するべきこととスケジュール

まとめ

この記事では、相続放棄と限定承認について取り上げてきました。

相続財産に債務が多く引き継ぐことが困難である場合、相続の全体像が短期間で掴めない場合には、相続放棄や限定承認を検討してみてください。

相続に関してお困りの場合には、相続・贈与に詳しいIFAや税理士等の専門家にご相談ください。


 

タワーマンション節税は相続税の減少には有効だが注意が必要!

「タワーマンション購入で節税できるらしい」「すでに税制が変わって、節税はできなくなったらしい」

節税を考えている人の中には、そんな話を聞いたことがある人もいると思います。

たしかに、タワーマンション節税は一時は過熱感があり、税制改正により是正されました。

しかし、実際には今でもタワーマンション購入には節税効果が期待できます。

ただし、単なる節税目的で購入することはおすすめできません。

タワーマンション節税の仕組みや、現在の税制を確認してみましょう。

1. タワーマンション節税とは?

タワーマンション節税とは、購入価額と相続税評価額に差額が出ることを利用した節税方法です。

一般的に、タワーマンションは購入したときの価格より、相続税を算出するときに使用する評価額が大きく下回ります。

つまり、実際の購入価額より、相続する金額が小さく見えるということです。

そのため、「タワーマンション節税」の文字は、一時期雑誌や書籍など見かけることも多く、少なからず過熱感がありました。

しかし、2011年にタワーマンション節税を行ったことが否認された事例がありました。

さらに、その後の2017年の税制改正で、固定資産税の課税方法が見直されました。

もう少し詳しく、節税できる仕組みと、改正の影響を見ていきます。

タワーマンションで相続税を節税できる理由

まず、土地付きの一戸建てを購入した場合、その建物と土地が財産になります。

これは理解しやすいことだと思います。

では、マンションを購入した場合の財産はどうなるでしょうか?

分譲されているマンションの一部屋を買った場合、建物(区分所有の一部屋)と敷地権(建物の敷地を利用する権利)が財産になります。

そして、この建物・敷地権の相続税評価額と、購入価格の差が非常に大きいことを利用して、相続税を減少することが、タワーマンション節税と呼ばれています。

国税庁の調査では、タワーマンションの購入価額と相続税評価額には、平均で3.04倍の乖離があるとされています。

つまり、タワーマンションの相続税評価額は、購入価額の約1/3です。

言い換えると、約2/3もの評価額を圧縮することができることを意味しています。

例えば、現金2億円でタワーマンションの一室を購入したとします。

この場合、相続時の評価額は約7,000万円です。

そのため、約1億3,000万円も相続財産を圧縮できることになります。

さらに言うと、将来にわたって相続後にマンション価格の相場に変動がなければ、相続人がタワーマンションを2億円で売却して現金に戻してしまうことも可能になります。

次に、タワーマンションの評価額の考え方を確認していきましょう。

マンションの価格は、「建物」と「敷地権」をそれぞれ評価して算出します。

① 建物の評価

建物の評価額は、固定資産税評価額によって算出します。

固定資産税評価額とは、その名前の通り、固定資産税や不動産取得税の計算に使われる評価方法です。

固定資産税評価額は、その不動産が所在する市町村(東京23区の場合はその特別区)がそれぞれの不動産ごとに個別に決定します。

この建物の固定資産税評価額は、固定資産の課税明細書で確認することができます。

大阪府堺市「固定資産の課税明細書」より転載

一般的に、固定資産税評価額は、購入価額の約4~5割程度の金額になります。

タワーマンションの場合は、人気度やプレミアム度によって購入価格が高騰することがあります。

そのため、固定資産税評価額は購入価額の1割ほどになる場合も珍しくありません。

② 敷地権の評価

もう1つの財産が敷地権です。

マンションの場合、土地そのものは購入者のものになりませんが、その代わりに敷地権という、建物の敷地を利用する権利が財産となります。

敷地権の相続税評価額は、まずマンションが保有する土地全体の相続税評価額を路線価などから算出します。

その評価額を、各所有者の持分割合に応じて分割した価額が、それぞれの所有者の評価額になります。

また、路線価とは国税局が定めている、道路に面した土地の評価額です。

一般的に、路線価による評価額は、購入価格の約8割程度とされています。

路線価は国税局が公表している、路線価図で確認することができます。

国税局「財産評価基準書」より抜粋

③ タワーマンションの相続時における評価額

タワーマンションの相続時の評価額は、上記の①建物と②敷地権の評価額の合計となります。

ここに、通常のマンションより、タワーマンションで節税効果が大きくなる理由があります。

タワーマンションは、名前の通り高層のマンションで、一定の広さの敷地を、たくさんの戸数で分け合うことになります。

そのため、購入時に支払った金額に占める敷地権の割合は、低層マンションと比べると低くなります。

つまり、建物の割合が大きくなります。

そして、タワーマンションの建物の相続税評価額は買った価格の1割程度であり、土地の相続税評価額は買った価格の8割程度でした。

そのため、建物の割合が大きいタワーマンションでは、一般的に低層マンションに比べて評価額が低くなります

 

このように、節税効果のあるタワーマンションですが、冒頭でも触れた通り、税制改正による影響や国税庁によって否認された事例があります。

それぞれ見ていきます。

2. 税制改正の影響

2017年の税制改正で、税制を是正することを目的に、高層マンションの固定資産税評価額の算出方法についての改正が行われました。

この改正によって、節税効果はなくなったのでしょうか?

実際には、改正によるタワーマンション節税への影響額は小さいと考えられます。

改正以前は、高層マンションの建物の固定資産税評価額は、低層階でも高層階でも同額でした。

しかし、実際の販売価格では、低層階と高層階では3~4倍もの価格差があることは珍しくありません。

そのため、特に価格の高い高層階を購入した場合に、購入価額と評価額に大きな差が生じていました。

つまり、価格の高い高層階を購入した人ほど、大きい節税効果を得られるということです。

2017年の税制改正では、この点の見直しが行われました。

一定の高さ以上の高層マンションでは、固定資産税評価額が、次のように購入した区画の高さによって変わります。

  • 低層階は評価額が減少
  • 中層階はそのまま
  • 高層階は上昇

具体的な例を上げると、マンションが50階建ての場合、50階にある部屋の評価額は、1階の部屋に比べて、約1割上昇することになります。

そのため、高層階の節税効果が多少是正はなされたものの、タワーマンション節税そのものの効果は大きく変わらないと言うことができます。

 

最後に、相続時に節税が認められなかったケースを確認してみます。

3. 否認の事例

2011年に、タワーマンション節税の否認判決が行われました。

事例の概要は次の通りです。

  • 相続発生の1ヶ月前にタワーマンションを2億9300万円で購入
  • 相続発生した際、上記のタワーマンションを5,800百万円で評価して相続税申告を実施
  • 相続発生から4ヶ月後にタワーマンションを2億8500万円で売却
  • これに対して、国税不服審判所は、相続税評価額(5,800百万円)ではなく、時価(約3億円)により相続税計算することが適当であると判示しました。

国際不服審判所」より抜粋

このケースで問題とされたのは、以下の点です。

  • 判断能力のない父親の名義で契約をした
  • 相続の直前に購入し、相続の直後に売却した

税法において、相続税を納めることは納税者の義務です。

そのため、物件の売買が相続財産の圧縮による節税目的であると判断され、購入価額で課税がされたと考えられます。


否認されないための注意点

上記の事例を踏まえ、どのような事例であれば否認されないのでしょうか?

  • 購入した部屋を、自宅用であれ賃貸用であれ、しっかりと取得目的に適う方法で利用することで、節税が主たる目的でないことを客観的に明確にする
  • 取得した部屋をできるだけ長く保有する

このようなポイントを押さえ、節税目的であると判断されないようにする必要があります。


節税目的の保有はオススメしない

タワーマンション節税では、相続税を大きく減少させられる可能性があります。

しかし、タワーマンションを購入する際には、現在の販売価格が適正か、住むのであれば生活の拠点としてどうか、将来の資産価値はどうなりそうか、といった様々な面から検討する必要があります。

節税だけを目的としてタワーマンションを購入し、相続税の節税はできたものの、物件自体が大きく値下がりし、結果的に損をしてしまった・・・ということも起こり得ますので、注意が必要です。

まとめ

この記事では、タワーマンション節税について取り上げてきました。

タワーマンション節税は、相続税を減少させる方法としては現在も有効ですが、そもそも、そのタワーマンションの販売価格は適正か、将来の資産価値はどうなりそうか、といった面から検討が必要です。

節税のみを目的とした、タワーマンションの取得はおすすめしません。

相続に関してお困りの場合には、相続・贈与に詳しいIFAや税理士等の専門家にご相談ください。


 

配偶者居住権は配偶者の生活を守るために新設された制度(2020年)

配偶者居住権は、配偶者の死後の生活を保護するために設けられた制度です。

死後、配偶者が住居や生活に困るようなことがあってはなりません。

そのため、制度の内容を知って、総合的に相続を考え、事前に備えをしておく必要があります。

それでは、配偶者居住権の具体的な内容について確認してみましょう。

1. 配偶者居住権とは?

2018年の民法改正で、配偶者居住権が新設されました。

これによって、2020年4月1日以後に発生する相続において、配偶者居住権を適用することができるようになりました。

相続の根本的な考え方として、それぞれの相続人が公平に相続を受けることができることがあります。

ただし、相続した財産の大部分が自宅の土地や建物などであった場合、配偶者の生活が保護されない可能性があります。

その理由は、土地や建物は換金が難しい場合もあるためです。

早期に換金ができない場合、円滑に相続を分割することが難しく、残された配偶者が直近の生活を行うことが難しくなります。

イメージが湧きにくいと思いますので、実際にどのような問題が起こる可能性があるか、具体的な例を元に考えてみます。

 

例の前提条件

  • 相続人は、配偶者と子供の2名
  • 相続財産は、不動産8,000万円と現金2,000万円

この場合、法定相続分は配偶者と子供が1/2ずつのため、それぞれ5,000万円を相続する権利があります。

上記の前提条件を元に、配偶者居住権がある場合とない場合での相続を見ていきます。

1)配偶者居住権がない場合(従来の制度)

配偶者が自宅に住み続けるために、自宅を相続するものとします。

この場合、配偶者は不動産8,000万円を相続し、子供は現金2,000万円を相続することになります。

相続人 相続財産
配偶者 不動産:8,000万円
子供 現金:2,000万円
つまり、配偶者は不動産だけで法定相続分を超えているため、現金は受け取れないことになります。

そのため、配偶者は自宅に住み続けることはできるものの、現金を相続することができないため、生活が困難となる可能性があります。

また、親子の関係性が良くない場合、もっと悪い状況が想定されます。

子供には遺留分の権利があり、民法において最低限の遺産を受け取る権利があります。

そのため、子供が遺留分の権利を主張した場合、配偶者、つまり親は子供に追加で500万円を受け渡す必要があります。

 

追加500万円についての補足

・相続人が配偶者と子供の場合、子供の遺留分は2,500万円です。
  → 遺産総額1億円 × 遺留分割合1/2 × 法定相続分1/2

・子供が相続した財産は、現金2,000万円でした。

・そのため、子供には不足している500万円を請求する権利があります。

 

遺留分について詳しく知りたい方は、こちらの記事を合わせてどうぞ。

家を守る 遺留分とは?相続人の権利を保護するための制度

2)配偶者居住権がある場合(現行の制度)

配偶者居住権は、建物を保有する所有権と、建物に住む居住権を分離した考えになっています。

配偶者は建物に住む権利である配偶者居住権を相続し、子供は建物を保有する権利などを相続します。

配偶者居住権の評価額は、不動産の現在価値より下がるように計算されます。

仮に配偶者居住権の評価額が3,500万円の場合、子供の所有権は4,500万円になり、最終的に配偶者と子供が相続する財産は次のようになります。

相続人 相続財産
配偶者 配偶者居住権:3,500万円
現金:1,500万円
子供 配偶者居住権以外の権利:4,500万円
現金:500万円

このように、現行の制度では配偶者はそのまま家に住み続けることができ、かつ相続した現金で当面の生活に困る可能性が低くなります。

2. 配偶者居住権の要件と効力

1)配偶者居住権の要件

配偶者居住権が認められるためには、下記の要件を満たす必要があります。

  1. 相続開始の時に、配偶者が相続財産である建物に居住していたこと
  2. 居住建物が被相続人の単独所有であったか、または、被相続人と配偶者と2名の共有であったこと
  3. 配偶者に配偶者居住権を取得させる旨の遺産分割、配偶者居住権の遺贈、または、被相続人と配偶者との間に配偶者居住権を取得させる死因贈与契約がされたこと

国税庁「配偶者居住権の概要」より抜粋

1つ目の要件に定められている通り、大前提として相続開始時、つまり妻や夫が亡くなったときに、配偶者は建物に居住している必要があります。

重要なのは居住地であるため、一時的に病気や怪我で入院をしていたケースなどは、要件を満たしています。

2)配偶者居住権の性質

配偶者居住権は、以下のような効力を有します。

  1. 配偶者は、居住建物の全部を無償で使用することができる。
  2. 配偶者は、居住建物の修繕をすることができる。
  3. 配偶者は、居住建物の所有者の承諾を得なければ、居住建物の改築や増築をすることはできない。
  4. 配偶者居住権は、原則として配偶者の生存中は存続する。なお、存続期限を定めることも可能。
  5. 配偶者居住権は、譲渡することができない。
  6. 配偶者居住権は登記することができ、登記がなければ他社に居住権を主張することはできない。

国税庁「配偶者居住権の概要」より抜粋

また、配偶者居住権は、以下に該当した場合に消滅します。

  1. 配偶者が死亡した場合
  2. (存続期間を設定した時)配偶者居住権の存続期間が満了した場合
  3. 配偶者居住権の存続期間の途中で放棄をした場合
  4. 配偶者居住権の存続期間の途中で合意解除をした場合
  5. 配偶者が居住建物を取得した場合
  6. 居住建物が滅失した場合

国税庁「配偶者居住権の概要」より抜粋

ポイントは、配偶者の生存中は配偶者居住権が存続するという点です。

そのため、基本的には、配偶者は居住建物の全部を無償で生涯使用することができます。

配偶者が家に住み続けられることが、配偶者居住権によってしっかり守られていることが制度面から分かります。

3. 配偶者居住権の評価方法

それでは、最後に配偶者居住権などの評価方法を確認していきます。

1)建物の配偶者居住権の評価

建物の配偶者居住権の評価

建物の配偶者居住権の評価

国税庁・タックスアンサー「No.4666 配偶者居住権等の評価」より転載

計算式は非常に複雑に見えますが、建物の配偶者居住権は、建物の相続税の評価額全体から、配偶者居住権が設定された建物の所有権の評価額を差し引くことで求めることができます。

① 居住建物の相続税の評価額

まず、建物の相続税の評価額は、固定資産税評価額をそのまま使用します。

固定資産税評価額は、固定資産の課税明細書で確認することができます。

固定資産の課税明細書の見本

大阪府堺市「固定資産の課税明細書」より転載

② 残存耐用年数

計算式における「耐用年数 ー 経過年数」を残存耐用年数と言います。

この残存耐用年数は、法定耐用年数に1.5を掛けた年数から、建物を使用した経過年数を引いた年数です。

法定耐用年数は、国税庁の公表されている耐用年数表で確認することができます。

③ 配偶者居住権の残存年数

残っている存続年数は、存続期間を設定した場合の年数、つまり配偶者がどれだけ住み続けるかです。

存続期間を特に設定せずに終身存続する場合には、年齢と性別に応じた平均余命年数を使用します。

平均余命は、厚生労働省が発表している簡易生命表で確認することができます。

厚生労働省「簡易生命表(令和元年度)」より一部抜粋、筆者加工

例えば、60歳のときに妻が亡くなった場合、60歳男性の平均余命は23.97年です。

④複利減価率

最後の複利現価率は、民法の法定利率によって定められています。

この民法の法定利率は、配偶者居住権の残存年数に応じて以下のように定められています。

国税庁「複利表」より一部抜粋、筆者加工

 

少しイメージが湧きにくいと思いますので、具体的な例を元に、実際に計算してみます。

前提条件

  • 相続税の評価額:建物 4,000万円、土地 4,000万円
  • 建物は築4年
  • 配偶者は相続開始時に75歳の女性
  • 配偶者居住権の存続年数は終身

このケースの場合、計算する際に用いる数値は次のようになります。

  • 建物の耐用年数:22年 × 1.5 = 33年
  • 建物の残存耐用年数:33年 ー 経過年数4年 = 28年
  • 配偶者居住権の存続年数:15年(75歳女性の平均余命年数)
  • 複利現価率:0.642(法定利率3%、15年間)

この数値を先ほどの計算式に当てはめると、次のようになります。

建物の配偶者居住権の評価額

相続税の評価額4,000万円

 - 相続税の評価額4,000万円 ×(28年-15年)/28年

  ×複利現価率 0.642

= 2,807万円

2)建物の所有権の評価

配偶者居住権が設定された建物の所有権の評価は、相続税の評価額から上記「1)建物の配偶者居住権の評価」を控除して求めます。

相続税の評価額 - 配偶者居住権の価額

 =4,000万円 ー 2,807万円

 =1,193万円

この例の場合、配偶者居住権が設定された建物の所有権の評価額は1,193万円となります。

3)土地の配偶者居住権の評価

土地の配偶者居住権の評価は、相続税の評価額全体から、配偶者居住権が設定された土地の所有権の評価、つまり、その他の所有権の評価額を控除して計算します。

土地などの相続税の評価額
 - 土地などの相続税の評価額
   × 居住権の存続年数に応じた民法の法定利率による複利現価率

= 4,000万円 ー (4,000万円 × 複利現価率0.642)

=1,432万円

また、土地の相続税の評価額は、路線価に土地の面積を掛けて算出します。(路線価がある地域の場合は、土地の形状により一定の補正を行います。)

路線価は国税局が公表している路線価図から確認することができます。

国税局「財産評価基準書」より抜粋

4)土地の所有権の評価

配偶者居住権が設定された土地の所有権の評価は、土地の相続税の評価額から上記の「3)土地の配偶者居住権の評価」を控除して求めます。

土地などの相続税の評価額-敷地の利用に関する権利の価額

 =4,000万円 ー 1,432万円

 =2,568万円

この例の場合、配偶者居住権が設定された土地の所有権の評価額は2,568万円となります。

 

評価額の算出について、イメージはでき他でしょうか?

構成要素を一つずつ確認していくと計算することはできますが、相続に慣れている人は少ないと思いますので、なかなか難しいかもしれません。

そのようなときには、税理士などに相談することをおすすめします。

まとめ

この記事では、配偶者居住権について取り上げてきました。

配偶者居住権は、被相続人の死後に相続財産の建物に居住していた配偶者の生活を守るための制度ですが、円滑な相続をするためには同制度の利用を含めて総合的に相続について検討することが不可欠です。

相続に関してお困りの場合には、相続・贈与に詳しいIFAや税理士などの専門家にご相談ください。


 

円滑な相続・事業承継のために遺留分の特例をチェック!

遺留分とは、遺族の生活保障を目的として一定の法定相続人に認められる遺産の最低限の取り分をいいます。

非上場会社の事業承継の局面では、遺留分が存在することにより事業用資産の承継などをスムーズに行うことができないケースがあります。

そのような場合に活用できるのが遺留分の特例の制度です。

この記事では、遺留分の特例について確認していきます。

1.遺留分とは

遺留分とは、遺族の相続期待利益を保護し、遺族の生活を保障するために、相続人に最低限の遺産を確保する制度です。

ざっくりというと、遺留分とは、一定の相続人に認められる最低限の取り分のことです。

相続人が配偶者と子2名(長男・次男)の場合には、財産の総額の1/2が全体の遺留分となり、さらに法定相続分を乗じた割合がそれぞれの相続人の遺留分となります。

配偶者と子供2人の場合の遺留分

  • 配偶者 1/4(全体の遺留分1/2 × 法定相続分1/2 = 1/4)
  • 長男  1/8(全体の遺留分1/2 × 法定相続分1/4 = 1/8)
  • 次男  1/8(全体の遺留分1/2 × 法定相続分1/4 = 1/8)

遺留分については、詳しくはこちらの記事をご確認ください。

遺留分とは?相続人の権利を保護するための制度

実は、このような遺留分が存在することによって、困りごとが発生してしまうケースがあります。

どのようなケースでしょうか?

その一つが、非上場会社の事業承継の局面です。

 

2. 事業承継の原則的な考え方

事業承継に際しては、非上場会社の経営者が所有する自社株式や自社不動産などの事業用資産を、生前贈与、相続、譲渡などの方法により後継者に承継させる必要があります。

ここでのポイントは、「後継者に集中的に承継させる」「極力、他の相続人には承継させない(例えば、事業に関係していない兄妹など)」ということです。

もし、他の相続人に、自社株式や自社不動産などの事業用資産が承継されてしまったら、どのような不都合があるのでしょうか?

例えば、非上場株式が分散してしまったケースを考えてみましょう。被相続人が先代経営者A、相続人が子3名(後継者B、会社に関係のない兄C、妹D)で、自社株式を1/3ずつ承継したとします。

株式には、会社の経営に関する意思決定をするための議決権という権利があります。

後継者にはわずか1/3の議決権しかないため、取締役・監査役の選任をする株主総会の普通決議(議決権の1/2超が必要)や、定款変更をする特別決議(議決権の2/3以上が必要)を単独で行うことはできません。

そのため、重要な意思決定の度に、会社に関係のない兄や妹の同意を取らねばならず、経営をスムーズに行うことが困難になってしまいます。

このような状況に陥らないために、原則的には自社株式などの事業用資産は、後継者に対して集約すべきであるといえます。

3. 事業承継における遺留分の問題

しかし、前述の遺留分が存在しているために、自社株式などの事業用資産を後継者に集中させようとすると不合理が発生することがあります。

例えば、先ほどの家族構成の場合を例に考えてみましょう。

 

前提とする事例

  • 財産として、自社株式と居住用不動産3,000万円がある
  • 先代経営者の生前において、自社株式の全てを後継者Bに対して贈与(贈与時の評価額は3,000万円)しており、事業用資産の承継自体は終了している
  • 自社株式の贈与を受けた後継者は、先代経営者の思いに応えるべく企業価値を高めた結果、先代経営者の相続発生時には、後継者が保有する自社株式の価値は1億2,000万円まで向上

一見、事業承継は財産面・経営面ともに問題なく終了しているように見えますが、遺留分の観点から見ると、実はそうではありません。

なぜならば、後継者が先代経営者から受けた贈与は、特別受益として相続時の評価額で遺留分算定の基礎となる財産に含まれることとなるためです。

結果として、遺留分算定の基礎となる財産は、自社株式1億2,000万円と居住用不動産3,000万円となります。

もともと3,000万円の評価額であった自社株式を、後継者の経営努力により1億2,000万円の評価額まで向上させたにもかかわらず、それが事業に関係のない兄や妹の遺留分を増加させてしまうという不合理がここに存在することとなります。

資産 遺留分算定の基礎となる財産に加算される額 備考
居住用不動産 3,000万円 先代経営者Aの相続財産
自社株式 1億 2,000万円 先代経営者Aから後継者Bに対する生前贈与(特別受益)
合計 1億 5,000万円  
 

このケースの場合、遺留分は次のようになります。

 

遺留分

遺留分算定の基礎財産1億5,000万円 × 遺留分割合1/2 × 法定相続分1/3 = 2,500万円

  • 相続人が子供のみの場合、遺留分は1/2
  • 法定相続分は子供3人で均等に分けるため、それぞれ1/3

一方、相続財産は居住用不動産3,000万円しかありません。

後継者Bは何も相続せず、事業に関係のない兄Cと妹Dが居住用不動産を1,500万円ずつ相続した場合でも、兄と妹の遺留分は1,000万円ずつ不足します。

もし、兄弟仲が悪ければ、兄Cと妹Dが遺留分に不足する1,000万円を、後継者Bに対して請求をするかもしれません。

そうした場合、後継者Bは兄C、妹Dに対して金銭で1,000万円を支払う必要が生じてしまいます。

相続人 相続財産 遺留分の金額 不足金額
後継者 なし 2,500万円
居住用財産:1,500万円 2,500万円 1,000万円
居住用財産:1,500万円 2,500万円 1,000万円
 

このような事業承継における遺留分の問題に対応するために、遺留分の特例があります。

遺留分の特例には、除外合意と固定合意があります。

1)除外合意

除外合意とは、自社株式を遺留分算定の基礎となる財産から除外することが出来る制度です。

上記の例でいえば、遺留分算定の基礎となる財産には、居住用不動産3,000万円だけが該当し、生前贈与をした自社株式は含まれないことになります。

除外合意を適用することにより、自社株式1億2,000万円が遺留分算定に影響を与えることを防ぐことができます。

中小企業庁「遺留分に関する民法特例のポイント(会社向け)」を元に、筆者一部加工

除外合意の考え方は、後継者Bの功労により価値が増減する自社株式そのものを、他の相続人に帰属する遺留分算定に関与させない、というものです。

しかし、贈与時の自社株式3,000万円の価値は先代経営者Aが築いたものであり、少なくとも贈与時の自社株式3,000万円は特別受益に該当するという考え方も合理的であるといえそうです。

次項で紹介する固定合意は、この点について調整をしたものです。


2)固定合意

固定合意とは、自社株式を遺留分算定の基礎となる財産から除外こそしませんが、自社株式の価額を贈与時点で固定することができる制度です。

上記の例でいえば、遺留分算定の基礎となる財産には、居住用不動産3,000万円と自社株式の贈与時の価額である3,000万円が該当します。

固定合意を適用することにより、後継者Bの経営努力による株式の価値上昇分である9,000万円が、遺留分算定に影響を与えることを防ぐことができます。

中小企業庁「遺留分に関する民法特例のポイント(会社向け)」を元に、筆者一部加工

4. 特例の適用要件と手続きの流れ

ただし、遺留分の特例を適用するには、要件を満たし、手続きを行う必要があります。

1)適用要件

除外合意、固定合意ともに下記の適用要件があります。

1 会社

 ・中小企業者であること

 ・合意時点において3年以上継続して事業を行っている非上場企業であること

2 先代経営者

 ・過去または合意時点において会社の代表者であること

3 後継者

 ・合意時点において会社の代表者であること

 ・現経営者から贈与等により株式を取得したことにより、会社の議決権の過半数を保有していること

中小企業庁「遺留分に関する民法特例のポイント(会社向け)」より抜粋

適用要件のポイントは、株式を取得する経営者が合意時点において会社の代表者であること、現経営者から贈与等により株式を取得することで議決権の過半数を保有していることです。

つまり、事業承継の局面でしか適用をすることができない特例となっています。


2)手続き

除外合意、固定合意ともに下記の手続きが必要です。

1 株式の贈与等

2 後継者と相続人全員による除外合意/固定合意

3 経済産業大臣の確認(合意から1か月以内に申請)

4 家庭裁判所の許可(経済産業大臣の確認から1か月以内に申し立て)

5 除外合意/固定合意の効力発生

中小企業庁「遺留分に関する民法特例のポイント(会社向け)」より抜粋

ポイントは、推定相続人全員で合意することが必要であるという点です。

経済産業大臣の確認と家庭裁判所の許可が必要となり、手続きが煩雑となる点には注意が必要です。

まとめ

この記事では、遺留分の特例について取り上げてきました。

遺留分の特例は、事業承継における遺留分の問題に対応するための制度です。

事業承継のプランを策定する際には、相続人の遺留分も含めて検討をすることが不可欠です。

相続・事業承継に関してお困りの場合には、相続・贈与に詳しいIFAや税理士等の専門家にご相談ください。


 

投資は難しい?損をする?は間違い、投資をやらないリスクとは

こんにちは、FPパートナーズ株式会社の坂上です。

一般的に資産運用や投資と聞くと「難しい」「損をする」などネガティブな話が多く、日本では投資はまだ一般的ではない様です。

今日は、本当に損をするのか、一方で投資をしないリスクはないのかといったことをお伝えします。

1. 投資に対するイメージ

私の知り合いに著名な公認会計士の先生がいらっしゃいます。

当然、知識は十分にありますが、投資には消極的です。

経済の話や企業の話をすると話が盛り上がりますが、いざ自分が投資するとなると、「リスクが高い」なんてことで話は終わります。

逆に投資に対する詳しい知識のない主婦の方でも、積極的に投資される方もいます。

この2人の方の投資に対する意識の違いを過去の会話から想定すると、公認会計士の先生は顧問先企業が過去に投資で大失敗をしたことがある様です。

つまり投資は、損をするものという考え。

後者の主婦の方は、そもそも財産はお父様が投資で作った財産を相続されたものです。

この2人は過去の経験で投資に対するマインドが違う様です。

2. なぜ日本では投資が普及していないのか

日米の株価推移の違いとは投資に関する認識は、日本と米国でも大きく違います。

米国では投資は一般的で、家計の現金比率は13%程度で、他は株式や投資信託など運用資産です。

かたや日本では現金比率は54%です。

なぜ日本では投資が普及していないのでしょうか?

大きく2点、指摘したいと思います。

1) 米国株の代表ニューヨークダウ平均株価は、今現在最高値近辺

つまり過去どの時点で買っていても、現在増えている可能性が高いということです。

それに対して日本では、代表的な株価指数である日経平均株価の最高値は、1989年12月38,915円です。

つまり30年前に投資した人が、いまだに損を抱えていることになります。

実際には損をしている米国人も、利益を出している日本人もいるのは事実ですが、成功体験の人数は圧倒的にアメリカ人の勝ちです。

2) 米国はインフレ、日本はデフレ

アメリカでは、平均的に2%以上のインフレのため、現金、投資、消費のうち現金が一番非経済的ですが、日本ではデフレのため現金が一番経済的になりえます。

3. 投資は損は間違い!投資をおすすめする理由とは

では日本で投資をすると損をするのでしょうか?

誰でも手軽に投資できる一般的な商品で日本から世界に投資した場合ですが、リーマンショックのあった2008年から直近2020年までの13年間で世界株の平均リターンは5.2%です。

また、日経平均への投資の場合、平均リターンは6.3%です。

日本ではバブル後の株価の長い低迷があったため、投資による成功体験者の数が圧倒的に少なくイメージが悪いのですが、ここ10年はちがったものになっています

日本でも徐々に個人型確定年金のイデコ(iDeCo)や積立NISAなどが浸透し始め、成果を享受している人も増え始めています。

ではなぜ投資した方がいいのでしょうか?

インフレの可能性も十分にありますが、日本の場合、ひっ迫した国の財政を考えると、将来の年金の減額、社会保障費の増額、増税など可処分所得の減少リスクは十分あると想定されます。

現役世代の人は将来の長い老後のため、年金生活者は日々の生活の充実のため、資産が増えるに越したことはないと思います。

しかし、投資するにも自分ですべて完結できない場合は、専門家のアドバイスが必要になりますが、金融機関の窓口にいる担当者は会社もしくは支店の推奨商品を会社都合で勧めてくる懸念がありますし、転勤や配置換えで担当者が変わることもあります。

投資の目的は、取り巻く環境が違えば投資先や投資期間も違ってきますし、また自分の考えや環境も変わりますので、時間とともにその目的も変わるかもしれません。

よって、長期的につきある信用できる転勤のないアドバイザー(IFA)と共に相談しながら進めることが、重要になります。

お気軽にご相談ください。

相続が発生したらまず確認!民法が定める相続人と相続分

相続は人が死亡することをきっかけに発生します。

その時、誰が相続人になるのか、相続分はどうなるのか、しっかりと把握していますか?

この記事では、相続とは何か、法定相続人・法定相続分の考え方について確認していきます。

1.相続とは何か?

相続とは、被相続人(死亡した人)の持っていた財産を、相続人である配偶者や子などが引き継ぐことをいいます。

財産の中には、被相続人の資産はもちろん、借入金などの負債も含まれます。

 

相続は人の死亡により開始します。

相続は、死亡によって開始する。

民法「第八百八十二条(相続開始の原因)」より抜粋

民法においては、死亡が唯一の相続開始の原因となっています。

しかし、実際には失踪宣告により死亡したものとみなされるケースも、死亡と同様に相続開始の原因となります。

不在者の生死が七年間明らかでないときは、家庭裁判所は、利害関係人の請求により、失踪の宣告をすることができる。

民法「第三十条(失踪の宣告)」より抜粋、一部筆者強調

前条第一項の規定により失踪の宣告を受けた者は同項の期間が満了した時に、(中略)死亡したものとみなす

民法「第三十一条(失踪の宣告の効力)」より抜粋

2. 法定相続人の対象

民法上、被相続人の財産を相続する権利がある人を法定相続人といいます。

法定相続人は、以下のように定められています。

死亡した人の配偶者常に相続人となり、配偶者以外の人は、次の順序で配偶者と一緒に相続人になります。

第1順位
死亡した人の子供
その子供が既に死亡しているときは、その子供の直系卑属(子供や孫など)が相続人となります。子供も孫もいるときは、死亡した人により近い世代である子供の方を優先します。

第2順位
死亡した人の直系尊属(父母や祖父母など)
父母も祖父母もいるときは、死亡した人により近い世代である父母の方を優先します。
第2順位の人は、第1順位の人がいないとき相続人になります。

第3順位
死亡した人の兄弟姉妹
その兄弟姉妹が既に死亡しているときは、その人の子供が相続人となります。
第3順位の人は、第1順位の人も第2順位の人もいないとき相続人になります。

国税庁・タックスアンサー「No.4132 相続人の範囲と法定相続分

まず、配偶者がいる場合には、常に配偶者は相続人になります。

次に、子など第1順位の人がいる場合には、その人が相続人になります。

そして、第1順位の者がいない場合には、父母など第2順位の人が相続人になります。

最後に、父母がいない場合には、兄弟姉妹など第3順位の人が相続人になります。

 

他の順位の人が同時に相続人になりことはありません。

例えば、子(第1順位)と父母(第2順位)が同時に相続人にはなりません。

 

なお、相続人となる子・兄弟姉妹がすでに死亡している場合には、その子である孫・甥姪に相続権が移ります。

これを代襲相続といいます。

また、孫がすでに亡くなっている場合には、その子であるひ孫が相続権を得ることになります。これを再代襲といいます。再代襲は、兄弟姉妹には認められません。

 

法定相続人について、ポイントは以下の通りです。

  1. 養子・胎児は相続人になる
  2. 婚外子は認知によって相続人になる
  3. 相続放棄によって相続人でなくなる

それぞれ確認してみます。


1) 養子は相続人

養子縁組とは、自然的な親子関係がない者との間に、法律上の親子関係を作り出す制度です。

養子縁組には、普通養子縁組と特別養子縁組の2種類があります。

 

普通養子縁組は、もともとの父母との親子関係が維持されたまま、養親との親子関係を作り出すものです。

普通養子縁組の場合には、養子は、もともとの父母と養親の相続人となります。

 

特別養子縁組は、もともとの父母との親子関係が終了して、養親との親子関係を作り出すものです。

特別養子縁組の場合には、養子は養親の相続人になり、もともとの父母の相続人にはなりません。

 

なお、養子の法定相続分は、実子と同等になります。


2)胎児は相続人になる

胎児については以下のように定められています。

胎児は、相続については、既に生まれたものとみなす。

 前項の規定は、胎児が死体で生まれたときは、適用しない。

民法「第八百八十六条(相続に関する胎児の権利能力)」より抜粋

相続開始時に胎児であった者は、生存して出生した場合には相続人となります。

しかし、残念ながら死産だった場合には、相続人になりません。


3)婚外子は認知によって相続人になる

婚外子、つまり婚姻関係にない男女間に生まれた子は、父から認知されることで父の相続人になります。

母に関しては、分娩の事実によって親子関係が証明されますので、認知は必要ありません。

なお、認知された婚外子の法定相続分は、実子と同等になります。


4)相続放棄によって相続人でなくなる

相続を放棄した人は、初めから相続人でなかったものとされます。

3. 法定相続分の割合

孫に財産を引き継ぐ

法定相続分とは、相続人の間で、遺産分割の合意ができなかったときの遺産の取り分をいいます。

法定相続分は、相続人がどの続柄の者で構成されているかのパターンに応じて、下記のように定められています。

相続人の構成パターンと相続分

  1. 相続人が配偶者と子供である場合:配偶者1/2 子供1/2

  2. 相続人が配偶者と父母である場合:配偶者2/3 父母1/3

  3. 相続人が配偶者と兄弟姉妹である場合:配偶者3/4 兄弟姉妹1/4

 

国税庁・タックスアンサー「No.4132 相続人の範囲と法定相続分」を元に筆者作成

なお、子供、父母、兄弟姉妹がそれぞれ2名以上いるときは、原則としてその人数で均等に分けることになります。

例えば、配偶者がいて、子供が3名いる場合には次のようになります。

  • 配偶者:1/2
  • 子供:1人あたり1/6(1/2 ÷ 子供3人)

また、配偶者がすでにいない場合には、その分を含めてその他の相続人で均等に分けることになります。

上記のケースで配偶者がいない場合は、子供1人あたり1/3という法定相続分になります。

4. 相続人の構成別・法定相続分

実際にいくつかの事例を元に、法定相続分を見てみましょう。

以下、すべて相続財産が3,000万円だった場合を例に、法定相続分の金額を見ていきます。

1)配偶者のみ

被相続人に配偶者がおり、その他に子供や父母・祖父母、兄弟姉妹がいない場合には、配偶者のみが法定相続人になります。

この場合は、遺産のすべてが配偶者の法定相続分になります。

続柄 法定相続分(割合) 法定相続分(金額)
配偶者 100%(すべて) 3,000万円

2)配偶者と子供

次に、被相続人に配偶者と子供がいるケースです。

子供は2名いるものとします。

父母・祖父母、兄弟姉妹がいない場合は、配偶者と子供2名(例えば長男と次男)が法定相続人になります。

この場合、配偶者の法定相続分が1/2、子供の法定相続分が1/2となります。

そして、子供が2名いるため、法定相続分を人数で均等に割り、長男・次男ともに1/4が法定相続分になります。

続柄 法定相続分(割合) 法定相続分(金額)
配偶者 50%(1/2) 1,500万円
長男 25%(1/4) 750万円
次男 25%(1/4) 750万円

3)子供のみ

次に、先ほどのケースで配偶者がすでに死亡している場合、つまり子供のみがいる場合を考えてみます。同様に、子供は2人いるものとします。(長男と次男)

この場合、財産のすべてを子供で均等に割ることになり、長男・次男ともに1/2が法定相続分になります。

続柄 法定相続分(割合) 法定相続分(金額)
長男 50%(1/2) 1,500万円
次男 50%(1/2) 1,500万円

4)配偶者と子供2人(1人死亡)

さらに、2と同じケースで、子供2人のうち1人が死亡している場合を考えます。(次男が死亡していたとします。)

死亡した子供には2人の子供、つまり被相続人からすると孫が2人いたとします。

この場合、死亡している次男の子供には代襲相続と言い、相続権が引き継がれます。

法定相続分の考え方は基本的に2と同じで、次のようになります。

  1. 配偶者の法定相続分が1/2、子供の法定相続分が1/2となります。
  2. 子供は2名いるため、法定相続分を人数で均等に割り、長男・次男ともに1/4が法定相続分になります。
  3. そして、次男に相続が発生しているため、相続権が孫に移り、次男の長女、次女は1/8が法定相続分となります
続柄 法定相続分(割合) 法定相続分(金額)
配偶者 50%(1/2) 1,500万円
長男 25%(1/4) 750万円
孫(次男の長女) 12.5%(1/8) 375万円
孫(次男の次女) 12.5%(1/8) 375万円

 


5)配偶者と両親

次は被相続人に子供はおらず、配偶者と両親がいるケースです。(子供がいる場合は、親には相続権がありません。)

この場合、配偶者と父・母が法定相続人になり、次のように割り当てられます。

  1. 配偶者の法定相続分が2/3、両親の法定相続分が1/3となります。
  2. 父母は2名いるため、法定相続分を人数で均等に割り、父・母ともに1/6が法定相続分になります。
続柄 法定相続分(割合) 法定相続分(金額)
配偶者 66.7%(2/3) 2,000万円
16.7%(1/6) 500万円
16.7%(1/6) 500万円

※小数点第2位で四捨五入しているため、表示上は割合の合計は100%になりません


6)配偶者と兄弟姉妹

最後に、配偶者と兄弟姉妹のみがいるケースです。(子供、または親がいる場合は兄弟姉妹には相続権がありません。)

同様に、兄と妹の2人の兄弟姉妹がいた場合を考えてみます。

この場合の法定相続分は、次のように考えます。

  1. 配偶者の法定相続分が3/4、両親の法定相続分が1/4となります。
  2. 兄弟姉妹は兄・妹の2名がいるため、法定相続分を人数で均等に割り、兄・妹ともに1/8が法定相続分になります。
続柄 法定相続分(割合) 法定相続分(金額)
配偶者 75%(3/4) 2,250万円
12.5%(1/8) 375万円
12.5%(1/8) 375万円
いかがでしょうか?

すべてのケースを網羅することはできませんが、ある程度は相続人の範囲と相続分の割合がご理解いただけたのではないでしょうか?

実際の相続の際は、家族構成のケースによって相続人と相続分が大きく変わります。

相続人の範囲と相続分の確認は慎重に行いましょう。

まとめ

この記事では、相続人の範囲について取り上げてきました。

相続人の確定は、相続対策においても、相続税申告においても、スタート地点になります。

相続人の確定を誤った場合、その後の全てが間違ったものになってしまいます。

相続に関してお困りの場合には、相続・贈与に詳しいIFAや税理士等の専門家にご相談ください。