遺言の種類「公正証書遺言」は安全・確実な方法

公正証書遺言は、安全かつ確実に遺言を残す方法です。

遺言の種類には、他に「自筆証書遺言」「秘密証書遺言」と、緊急事態における遺言として「特別方式の遺言」があります。

このうち、公正証書遺言は公証役場において公証人が作成し、証人が内容を確認して作成する確実性の高い遺言です。

具体的にどういったものかを見ていきましょう。

1. 公正証書遺言とは何か?

まずは、「公正証書遺言」が、民法上にどう規定されているかを確認していきましょう。

また、遺言について基本から知りたい方はこちらの記事も合わせてどうぞ。

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1)公正証書遺言とは

民法上、「公正証書遺言」の手続きについては、下記の通り規定されています。

公正証書によって遺言をするには、次に掲げる方式に従わなければならない。
一 証人二人以上の立会いがあること。

二 遺言者が遺言の趣旨を公証人に口授すること。

三 公証人が、遺言者の口述を筆記し、これを遺言者及び証人に読み聞かせ、又は閲覧させること。

四 遺言者及び証人が、筆記の正確なことを承認した後、各自これに署名し、印を押すこと。ただし、遺言者が署名することができない場合は、公証人がその事由を付記して、署名に代えることができる。

五 公証人が、その証書は前各号に掲げる方式に従って作ったものである旨を付記して、これに署名し、印を押すこと。

民法「第九百六十九条 公正証書遺言」より抜粋、筆者強調表示

民法の規定は上記の通りですが、少々複雑ですので、下記に整理してみます。

  1. 遺言にあたり、2人以上の証人が立ち会います。

  2. 遺言者が、遺言の趣旨を公証人に口頭で伝達します。
    なお、遺言者が口がきけない者(喋ることができない者)である場合には、手話を解する者による通訳等や自書によって公証人に伝達することも可能です。

    また、遺言者が入院中であるといった場合など、公証役場に出向くことが困難である場合には、公証人に出張してもらうことも可能です。

  3. 公証人が、遺言者の口頭の伝達内容を筆記します。
    それを、遺言者と証人に読み聞かせ、または、閲覧させます。

    遺言者、または、証人が耳の聞こえない者である場合には、手話を解する者による通訳等によることも可能です。

  4. 遺言者・証人が、筆記が正確であることを確認した後、各自署名押印をします。
    その際、遺言者は実印を押印します。(証人は、認印でも差し支えありません。)

  5. 公証人が、この証書は上記の方法に従って作ったものである旨を記して署名・押印します。

これで「公正証書遺言」の完成です。

遺言者が口述し、それに基づいて公証人が遺言書を筆記する点が、「自筆証書遺言」や「秘密証書遺言」と異なる特徴です。


2)公正証書遺言のイメージ

公正証書遺言のイメージを以下に示します。

本来、証人は2名以上が必要ですが、紙幅の都合上で1名分しか記載していない点についてはご注意ください。

また、下記のうち「行書体」の部分は自書(手書き)することが必要です。

出典:「法務省によるひな形」を筆者が一部加工

 


3)証人について

上記の中で「証人」という言葉が出てきましたが、民法においては、下記に該当する者は「証人になれない者」であるとして定められています。

次に掲げる者は、遺言の証人又は立会人となることができない。
一 未成年者
二 推定相続人及び受遺者並びにこれらの配偶者及び直系血族
三 公証人の配偶者、四親等内の親族、書記及び使用人

民法「第九百七十四条 証人及び立会人の欠格事由」より抜粋

上記の通り、親族などでは証人になることができませんので、証人2名以上を立てるのに苦労するケースも多くあります。

そういった場合には、証人を弁護士に依頼することも可能です。

費用は発生してしまいますが、弁護士は職務上厳格な守秘義務を負っていますので、内容については秘密を守ることが可能となります。


4)手続きに必要な書類

公正証書遺言の手続には、下記の書類が必要となります。

  1. 遺言者本人の本人確認資料(印鑑登録証明書又は運転免許証、住基カード等顔写真入りの公的機関の発行した証明書のいずれか一つ。)
  2. 遺言者と相続人との続柄が分かる戸籍謄本
  3. 財産を相続人以外の人に遺贈する場合には、その人の住民票(法人の場合には資格証明書)
  4. 財産の中に不動産がある場合には、その登記事項証明書(登記簿謄本)と、固定資産評価証明書又は固定資産税・都市計画税納税通知書中の課税明細書
  5. 証人予定者の名前住所生年月日及び職業をメモしたもの

出典:日本公証人連合会「公証事務・遺言

公証役場で相談する際には、あらかじめ上記の資料を準備してから行くことをお勧めします。

ここまで、公正証書遺言の法的な要件を確認してきました。

次に、公正証書遺言のメリット・デメリットを見てみましょう。

 

2. 公正証書遺言のメリット

メリットとデメリット

公正証書遺言のメリットは、大きく2つです。

  1. 保管が確実で安全
  2. 検認手続きが不要

1)保管が確実で安全

公正証書遺言によった場合には、公証人の面前で口述をした後に、公証人が筆記をすることにより作成しますので、遺言の存在は明確化されますし、形式面で問題が起こることは基本的にはありません。

その後、公正証書遺言の原本が公証役場に保管されることになるため、保管が確実であり、紛失・変造のリスクがありません

それに対して、自筆で作成する自筆証書遺言は、自宅で保管した場合には紛失のリスクがありますし、遺言を見つけた相続人が破棄・変造をしてしまう可能性があります。

また、自己作成であるため、形式的な要件を満たさないこととなるリスクがあります。

この点から、公正証書遺言は確実性が高く、安全な遺言の方式であるといえます。

また、自筆証書遺言について知りたい方はこちらの記事も合わせてどうぞ。

計画的な貯蓄を 遺言の種類「自筆証書遺言」は手軽だが注意が必要

2)検認手続きが不要

公正証書遺言によった場合には、「家庭裁判所の検認」という手続きが不要となります。

家庭裁判所の検認とは、遺言者が亡くなった後に、家庭裁判所において出席した相続人の立ち会いのもと、裁判官が遺言を開封する手続きです。

検認の手続きには「約1か月~2か月程度」の期間を要し、相続人は家庭裁判所に実際に赴く必要があることから、相続人にとっては大きな負担となってしまいます。

検認の手続きは、遺言の偽造・変造を防ぐために義務付けられている制度ですので、遺言の偽造・変造のリスクのない公正証書遺言の場合には不要とされています。

対して、「法務局保管制度を活用しない自筆証書遺言」や「秘密証書遺言」の方式によった場合には、家庭裁判所の検認の手続きを行うことが求められます。

 

では、公正証書遺言のデメリットは何でしょうか?

3. 公正証書遺言のデメリット

安全かつ正確な公正証書遺言ですが、手続きの煩雑さと、証人から秘密が漏れる可能性があることがデメリットです。

1)手続きが煩雑で費用がかかる

前述の通り、公正証書遺言の手続きは非常に煩雑です。

また、公正証書遺言は、財産の価額に応じて、公証人手数料令に定められた公証人手数料が発生します。

公証人手数料の金額は、以下の通りです。

出典:日本公証人連合会「公証事務・遺言

例えば、公正証書遺言に記載している財産の価額が5,000万円であれば、公証人手数料は43,000円となります。


2)証人から秘密が漏れる可能性

公正証書遺言を作成する際には証人2名を立てる必要がありますので、証人から遺言の内容が漏れてしまう可能性があります。

もし、この点が不安であった場合には、証人を弁護士に依頼することで遺言の秘密が漏洩してしまうリスクを低減させることができると考えられます。

まとめ

この記事では、遺言者の思いを相続人に遺すための方法である遺言の1つ「公正証書遺言」について取り上げてきました。

公正証書遺言は、公証役場において公証人が作成し、証人が内容を確認して作成するため、確実性の高い遺言です。

労力と費用は掛かりますが、確実性の高い遺言を作成したい場合には「公正証書遺言」をお勧めします。

また、遺言は相続対策の有力な一つの手段ですが、できればそれだけではなく、生前に相続についてしっかりと検討をして、生前贈与などを含めた相続対策を行うことで、相続人へスムーズに資産を移転することが望ましいと思います。

相続や、相続後の資産の運用について不安がある方や相談したい方は、ぜひ一度相続・贈与に対応しているIFAや税理士等の専門家にご相談ください。


 

※本ページに記載されている内容は2021年4月2日時点のものです
※記載内容に誤りがある場合、ご意見がある方はこちらからお問い合わせください

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