秘密証書遺言では、言葉の通り遺言の内容を秘密にすることができる遺言です。
ただし、法律の専門家である公証人によって、遺言の存在が保証されています。
そのため、元々は自筆証書遺言と公正証書遺言の「いいとこどり」の性質をもった制度でした。
しかし、2020年に自筆証書遺言の法務局保管制度が創設されたことで、秘密証書遺言のメリットは薄くなってしまいました。
秘密証書遺言とはどのような制度か、どのようなメリット・デメリットがあるかを見ていきましょう。
1. 秘密証書遺言とは?
まず「秘密証書遺言」とは、どのような制度か確認してみましょう。
民法では、次のように定められています。
秘密証書によって遺言をするには、次に掲げる方式に従わなければならない。
- 遺言者が、その証書に署名し、印を押すこと。
- 遺言者が、その証書を封じ、証書に用いた印章をもってこれに封印すること。
- 遺言者が、公証人一人及び証人二人以上の前に封書を提出して、自己の遺言書である旨並びにその筆者の氏名及び住所を申述すること。
- 公証人が、その証書を提出した日付及び遺言者の申述を封紙に記載した後、遺言者及び証人とともにこれに署名し、印を押すこと。
民法「第九百七十条 秘密証書遺言」より抜粋、筆者強調表示
補足を付け加えながら、ポイントを整理します。
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遺言を残す人は、遺言を作成し署名と押印を行います。自筆証書遺言は、自筆で遺言を記載する必要がありますが、秘密証書遺言ではパソコンや代筆も認められています。
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遺言を残す人は、作成した遺言を封筒に入れ、封をした箇所に遺言に押印したものと同じ印鑑で押印をします。
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遺言を作成したら、遺言を残す本人が証人となる人を2名以上連れて公証役場へ行き、公証人と証人の前で自分の遺言書であることを申し伝えます。
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公証人は、遺言を提出した日付と遺言者から聞いた内容を記入し、封をします。そして、遺言者と証人はその封紙に署名と押印を行います。
これで、秘密証書遺言の完成です。
秘密証書遺言が自筆証書遺言と異なる最も大きいポイントは、3つ目以降の公証人の前で証人とともに遺言があることを明らかにする点です。
公証人とは、裁判官などの法務実務に30年以上携わってきた人の中から、法務大臣によって任命された公務員です。
そのため、公証人による承認は法的な効力を持ちます。
また、秘密証書遺言を認めてもらうためには、証人を連れていく必要がありますが、その証人は誰でも良いわけではなく、一定の条件があります。
具体的には、次に該当する人は証人になることはできません。
次に掲げる者は、遺言の証人又は立会人となることができない。
- 未成年者
- 推定相続人及び受遺者並びにこれらの配偶者及び直系血族
- 公証人の配偶者、四親等内の親族、書記及び使用人
民法「第九百七十四条 証人及び立会人の欠格事由」より抜粋
やや言葉が難しいですが、2つ目に記載されている内容は、遺言を残す人の配偶者や子供・実の両親など近い親族では証人になることができないということです。
そのため、2名以上の証人を選ぶことや、協力をお願いすることに苦労するケースも多いようです。
このように秘密証書遺言は要件に厳しい部分があります。
ただし、公証人による記録などの要件を満たすことができなかった場合でも、自筆証書遺言としての効力を持つ可能性があります。
秘密証書による遺言は、前条に定める方式に欠けるものがあっても、第九百六十八条に定める方式を具備しているときは、自筆証書による遺言としてその効力を有する。
民法「第九百七十一条 方式に欠ける秘密証書遺言の効力」より抜粋
厳しい要件に対するセーフティネットとしての規定だと考えられますが、適用されるには自筆証書遺言の要件を満たしている必要があるため注意が必要です。
例えば、秘密証書遺言はパソコンや代筆でも認められますが、自筆証書遺言は自筆である必要があるため、現実には認められないことも多いと考えられます。
書き損じなどをしてしまった部分の修正
手書きしている途中で「書き損じ」をしてしまうことや、完成後に一部を修正したいこともあると思います。
その場合は、適切な方法で修正を行う必要があります。
2 第968条第3項の規定(筆者注:自筆証書遺言中の加除その他変更に係る条項)は、秘密証書による遺言について準用する。
民法「第九百七十条 秘密証書遺言」より抜粋、筆者注釈
つまり、秘密証書遺言を修正する場合は、自筆証書遺言と同様の修正が必要だということです。
具体的な修正方法も含め、自筆証書遺言についてはこちらの記事で詳しく解説しています。
ここからは、秘密証書遺言のメリット・デメリットを確認していきます。
2. 秘密証書遺言のメリット
秘密証書遺言の最大のメリットは、遺言の内容を秘密にしたまま、遺言の存在を明確にしてもらえる点です。
遺言の内容を秘密にすることは、自分で遺言を作成して保管しておく自筆証書遺言であっても可能です。
しかし、自筆証書遺言は自宅などで保管することとなるため、遺言自体が紛失してしまったり、相続する人が遺言を見つけて、破棄・変造してしまうケースがありました。
そのようなことを防ぐためには、公正証書遺言があります。
公正証書遺言は、遺言を残す人が公証人の前で遺言の内容を口述して公証人が筆記して作成する遺言で、公証役場に遺言の原本が保管されるため、遺言が確実に残されます。
しかし、遺言を口述する際に証人も立ち会うため、内容は証人にも知れてしまい、完全に秘密にすることはできません。
そのため、遺言の内容を誰にも知られることなく、遺言の存在を明らかにすることができる秘密証書遺言は「いいとこどり」の制度という表現を使いました。
このメリットは今でも変わりませんが、2020年7月に「自筆証書遺言の法務局保管制度」が創設されたことによって、秘密証書遺言を選択する理由はあまりなくなってしまいました。
この制度は、自筆証書遺言を法務局に保管してもらうことができる制度です。
自筆証書遺言で法務局保管制度を活用する場合には、証人が不要であるため秘密を守ることができます。
さらに、法務局に原本を保管してもらえるため、遺言の紛失・破棄・変造といったリスクも防ぐことができます。
そのため、今後遺言を残す場合には、自筆証書遺言または公正証書遺言を選択することが望ましいと考えます。
それぞれの遺言について、詳しく知りたい方はこちらの記事を合わせてお読みください。
最後に、念のために秘密証書遺言のデメリットも見ていきます。
3. 秘密証書遺言のデメリット
秘密証書遺言のデメリットは、大きく3つです。
- 遺言が無効となる可能性
- 家庭裁判所の検認が必要
- 紛失・偽造・変造のリスク
1)無効となる可能性
先ほど民法を解説したように、秘密証書遺言の形式は明確に定められています。
そのため、法律が求める形式を満たさなかった場合、遺言が無効とされることがあるため、作成には細心の注意が必要です。
2)家庭裁判所の検認が必要
自筆証書遺言と同様、遺言を残した人が亡くなった後に「家庭裁判所の検認」を行う必要があります。
検認とは、相続人が家庭裁判所に出向いて、出席した相続人の立ち会いのもと、裁判官が遺言を開封する手続きです。(自宅で遺言を開封した場合などは、無効になる可能性があります。)
そして、家庭裁判所の検認手続きには約1か月~2か月程度の期間を要し、相続人が実際に家庭裁判所に行く必要があることから、特に遠方にいる場合などは相続人にとって大きな負担となる可能性があります。
3)紛失・偽造・変造のリスク
公証人および証人が遺言の存在を明らかにしているとはいえ、秘密証書遺言の保管場所は一般的には自宅や貸金庫などです。
そのため、遺言自体が紛失されてしまう可能性があります。
また、相続人などに遺言を偽造、変造、破棄などをされてしまうといった可能性もゼロではありません(リスクの度合いは、自筆証書遺言に比べると低いとは考えられます)。
3つのデメリットのうち、②と③は自筆証書遺言の法務局保管制度を活用することで回避することができます。
そのため、今後はあえて秘密証書遺言を使う場面はかなり限られているのではないかと考えられます。
まとめ
この記事では、遺言の1つである「秘密証書遺言」を見てきました。
秘密証書遺言は、遺言の内容を秘密にしたまま遺言の存在を明確にできるという特徴がありますが、自筆証書遺言の法務局保管制度が創設されたため、秘密証書遺言を選択するメリットは薄くなってしまいました。
今後、遺言を作成するときには、希望する遺言の残し方に合わせて「自筆証書遺言(法務局保管)」と「公正証書遺言」を検討するところから始めることをお勧めします。
相続や、相続後の資産の運用について不安がある方や相談したい方は、ぜひ一度相続・贈与に対応しているIFAや税理士等の専門家にご相談ください。