日本で「貯蓄から投資へ」が進まない理由① 投資の成功体験を積めていない

2003年に「貯蓄から投資へ」のスローガンが掲げられて20年近くが経ちましたが、日本人の家計の割合は相変わらず現預金が中心で、「貯蓄から投資へ」が進んでいないのが現状です。

このシリーズでは3回に渡って、なぜ日本では「貯蓄から投資へ」のシフトが進まないのかを探ってみたいと思います。

この記事を読むことで、あなたが資産運用を始められない理由が分かり、資産運用の1歩を踏み出すきっかけになっていただければ幸いです!

1:投資の成功体験を積めていない

 ▼

2:制度設計が遅れている

 ▼

3:金融リテラシーが不足している

1. 15年年間、日本人の保有資産は現預金がほとんど

まずは、この15年間の日本人の金融資産の内訳推移を紐といてみます。

このグラフは、日本の家計の金融資産の推移です。

日本銀行調査統計局「2020年第2四半期の資金循環(速報)」より

グラフの補足

・2004年度から2019年度までは年次データ

・2018年度7月から2020年6月までは、四半期ごとのデータ

 

2008年に端を発したリーマンショック、2020年の年初からのコロナショックの影響により、株価の低下に伴い株式の比率が下がっていることが多少目に見える変化です。

しかし、全体を見ると内訳の変化はほとんど見られず、一貫して現金・預金や保険の比率が高くなっていることが分かります。

2. アメリカ・イギリスは日本と比べて投資比率が高い

日本は現預金比率が高いと言いましたが、他の国はどうなっているのでしょうか?

同じ先進国である、アメリカ・イギリスとの違いを見てみましょう。

このグラフは金融庁が発表している、日本・アメリカ・イギリスの金融資産の割合を比較したものです。

金融庁「安定的な資産形成に向けた取り組み(金融税制・金融リテラシー関連)」より

現預金を示す緑の比率を見ると、アメリカ・イギリスは日本より割合が少ないことが分かります。

一方で、ピンクで表現されている投資性資産(投資信託や株式)の比率は日本より多いことが分かります。

イギリスは、一見投資性資産の割合は日本と変わらないように見えますが、年金・保険等の割合が非常に大きいことが見てとれます。

これは、確定拠出型の年金が主な構成になっており、その年金等を通して間接的に投資信託や株式に投資が行われています。

そのため、実際の株式や投信への投資割合は、表示よりも構成比が大きくなります。

 

では、この投資性資産の割合は結果にどう繋がっているでしょうか?

結論を言うと、アメリカ・イギリスは投資の利回りによって金融資産が大きく増えていますが、日本は金融資産の増加が少なくなっています。

金融庁「人生100年時代における資産形成」より

アメリカ・イギリスとの違いから分かること

  • 個人の金融資産が、20年間でアメリカは2.7倍、イギリスは2.3倍に伸びている
  • 一方で、日本の金融資産の伸びは1.4倍に留まる
  • 運用リターンだけを見ても、アメリカは2.0倍、イギリスは1.6倍の成長が見られる(いずれの国も運用以外の増加も大きい)
  • このグラフからだけでは言い切れませんが、日本は長期の景気低迷により、労働所得・投資による不労所得ともに少なく、金融資産の増加が少ないと考えられる

アメリカとイギリスは、労働による収入も増えていると考えられますが、運用による資産の増加が大きいことが分かります。

3. 日本で「貯蓄から投資へ」が進まない3つの理由

ここまで、日本で「貯蓄から投資へ」が進んでいない現状、海外に比べて現預金比率が高く、投資性資産の比率が低いことを見てきました。

先ほどの海外比較だけを見ると、日本も同じように投資をした方が良いように思えます。

それなのに、なぜ日本では投資が進まないのでしょうか?

私たちが考える、日本で投資が進まない理由は次の3つです。

  1. 日本人は成功体験を積めていない
  2. 日本は制度設計が遅れている
  3. 日本人は金融リテラシーが追いついていない

これだけでは分からないと思いますので、1つずつ詳しく説明していきます。

4. 日本人は成功体験を積んでいない

まず、日本で「貯蓄から投資へ」が進まなかい理由の1つは、日本と海外の株価変動の影響があると考えられます。

このことは、1985年以降の日本とアメリカの株価推移を比較してみると理解が進みやすいと思います。

このグラフは日経平均株価とS&P500指数を、1985年を1として2020年までを比較したものです。

S&P500指数の補足

日経平均株価が日本経済全体を計る指標となっていることと同様に、S&P500はアメリカ経済全体の状況を計る指標となっている数字です。

ニューヨーク証券取引所、NSDAQ等に登録されているアメリカ企業のうち、時価総額の大きい大型株であり、かつ流動性があることを基準に選ばれた500銘柄で構成されています。

著者・BIG TREE作成

青いラインが日経平均株価、オレンジのラインがアメリカ・S&P500の推移を表しています。

これを見ると、次のことが分かります。

  • 日本はバブル崩壊以降、低迷が続いており1985年からの30年間で約2倍になっている(「戻ってきた」と言う表現が正しいかもしれません)
  • アメリカは浮き沈みがありつつも、30年間で約20倍にまで伸びている

これを見ると、日本人がどんなに頑張って日本株に長期投資をしてきたとしても、アメリカには敵いません。

投資をする際には、自国の資産を多く持ってしまう傾向があり、これを「ホームバイアス」と呼びます。

想像がつくと思いますが、日本人であれば日本株を買うことが多く、アメリカ人であればアメリカ株に投資をする人が多いです。

その結果、この30年間でアメリカ株に投資をしていたアメリカ人は「株を保有していたら資産が増えた」という成功体験を重ねてきています。

一方で、日本人は「株を持っていたら損をした」という挫折を味わってきた人が多いと考えられます。

そのため、日本人には投資では資産が増えないばかりか「株は危ないもの・損をするもの」という認識が植え付けられてしまっています。

こういった経験から、「株には手を出さない」「投資はやらない方がいい」という思いになっても仕方ありません。

 

次に、定期預金などの安全性資産と投資を比較してみます。

日本銀行「預金種類別店頭表示金利の平均年利率等」をもとに著者・BIG TREE作成

1991年時点では金利が5%を超えていますが、その後は金利は下降の一途を辿り、2000年以降は金利が0.5%にも満たない超低金利時代に入ります

例えば、1990年に10年間固定の定額預金を行い、2000年まで資産を置いていたとします。

1990年から5%の金利で10年間、半年の複利で100万円を運用した場合、10年後には約164万円になります。

一方で株に投資をしていた場合、日経平均は1990年初頭をピークに、2000年頃には50%以下になっていますので、同じように100万円を投資していた場合50万円になっていた可能性があります。

もちろん、投資していた企業や売買のタイミングで変わるので、一概には言えませんが、このような経験がある人にとっては、銀行預金の方が良かったというイメージが根付いて当然とも言えます。

元本割れがない預貯金で安全にそこそこの金利で運用することが賢く、株式に投資することはギャンブルというイメージが醸成され、株式投資に悪いイメージが付いて回っている可能性があります。

5. 今後の展望と対策

ゆうちょ銀行の金利の変化

ただ、グラフを見ても分かる通り、1995年以降は長く低金利時代が続いています。

そのため、預貯金では資産が増えないことを多くの人が感覚として捉え始めています。

こういったことを背景に、いよいよ投資を始める必要性を考え始めている人が増えているように感じますが、過去の失敗を繰り返さないためには、どうすれば良いでしょうか?

様々な対応策がありますが、ここでは2つの考え方、「分散投資」と「市場に対応した戦略」をご紹介します。


対策1. 分散投資

1つめ対策は「国際分散投資」です。

過去の日本とアメリカの株価推移を見ると、日本の株に偏った投資をしていた場合、資産は増えなかった可能性が高いです。

一方で、過去の例ではアメリカ株に投資をしていた場合は、大きく資産が増えた可能性があります。

ただし、この先も同じ傾向が続くとは限りませんので、アメリカ株に投資をすれば良いという単純な話ではありません。

これは投資の基本ですが、日本やアメリカだけでなく、株以外の金融資産も含めて投資先を分散することが大切です。

また、1990年頃はネット証券も現在に比べると充実していませんでしたし、情報も少なかったため、実際に国際分散投資を行うのは難しかったと思います。

ただ、現在は投資信託の種類も増えているので、海外の資産に手軽かつ低コストで分散投資することも可能になっています。

このことから、国際分散投資ができる環境が整っていなかったことも、日本人の資産運用がうまく行かなかった一因になっていたと考えられます。


対策2. 市場に対応した戦略

2つ目の対応策は、市場に対応した戦略を取ることです。

すべての金融商品・市場が上がっていればいいのですが、現実にはそういったことはありません。

常に、上がっていく市場と下がりめの市場があります。

そのため、それぞれの市場に適した戦略を取る必要があります。

近年、日本でもNISAやiDeCo(個人型確定拠出年金)を通して「長期・積立・分散」投資の考え方が徐々に浸透してきていますが、実際に長期・積立・分散投資が最大限効果を発揮するのは「浮き沈みがありながらも、長期的には上昇していく」市場です。

先ほどのグラフで紹介したように、バブル崩壊後の日本株のような市場で「長期・積立・分散」投資を行った場合、長期的に見るとプラスにはなると思いますが、とても効率が悪いと考えられます。

少し言い方が悪いですが、このような「ハズレ」市場だけに投資しないための基本が先ほどの「国際分散投資」です。

まずは、そこから始めることが基本ですが、投資経験や知識が高くなってきたら、次のステップ・中級編として市場に対応した戦略を取る方法があります。

例えば、長期的な成長が見込める市場では、王道の「長期・積立・分散投資」を行い、そうでない市場では、異なるアプローチで市場平均より高いリターンを狙う運用をして行く。

そうした、ポートフォリオの組み合わせで、自分が望むリターンに近づけていける可能性があります。

まとめ

この記事では日本で「貯蓄から投資へ」が進まない理由の1つ目として、日本は経済・株式市場の低迷を背景に日本人が投資で成功体験を得られていないことを説明してきました。

コツコツ貯金することが賢く、投資は愚か者のする博打、というイメージをどこかに持っていないでしょうか?

そのイメージが、私たちが投資をする足かせになっているかもしれません。

一方で、バブル後の落ち込みを経験していなくて、物心ついたときから上昇相場を見てきた若い人は、そのようなイメージを持っていないかもしれません。

「貯蓄から投資へ」は若い世代から広がっていく可能性もありますが、低金利の時代、投資は誰にとっても必要なものです。

今一度、資産運用の必要性を考えてみましょう。

次回は、「貯蓄から投資へ」が進まない理由を制度面から見ていきたいと思います。


1:投資の成功体験を積めていない

 ▼

2:制度設計が遅れている

 ▼

3:金融リテラシーが不足している



 

※本ページに記載されている内容は2021年3月7日時点のものです
※記載内容に誤りがある場合、ご意見がある方はこちらからお問い合わせください

アドバイザーを探す

  • Facebook
  • Twitter
  • LINE
  • Pocket