日本で「貯蓄から投資へ」が進まない理由② 制度設計が遅れている

2003年に「貯蓄から投資へ」のスローガンが掲げられて20年近くが経ちましたが、日本人の家計の割合は相変わらず現預金が中心で、「貯蓄から投資へ」が進んでいないのが現状です。

3回シリーズで、なぜ日本では「貯蓄から投資へ」のシフトが進まないのかについて探ってみたいと思います。

前回は、日本で「貯蓄から投資へ」が進まない理由の1つ目として、日本の市場環境が悪くて投資の成功体験を積めていないことを見てきました。

今回は、2つ目の理由として、「制度設計が遅れている」ことについて見ていきたいと思います。

1:投資の成功体験を積めていない

 ▼

2:制度設計が遅れている

 ▼

3:金融リテラシーが不足している

1. アメリカ・イギリスと比べて金融制度の導入が遅れている

日本で「貯蓄から投資へ」が進まなかった理由の2つ目は、「制度導入の遅れ」です。

日本の金融制度はアメリカやイギリスに比べて、10年から20年遅れているとも言われています。

まずは、これら海外の制度がどうなっているかを見た上で、日本の現状と比較してみたいと思います。

日本の金融制度はアメリカやイギリスなどを参考にしていますので、海外の制度の変遷を見ることで、日本のこれから進む方向が見えてくるかもしれません。

2. 米国の金融制度~401(k)プランとIRA

米国で「貯蓄から投資へ」を後押しする主な制度としては401(k)プランとIRAという制度があります。

(1)401(k)プラン

401(k)プランは、確定拠出型企業年金(DC)の代表的な制度で、雇用主が従業員の福利厚生制度の1つとして提供しています。

日本の401kはこの制度がモデルになっており、日本では2001年に制度が開始されました。

一方、アメリカでは日本より20年早い1981年に開始されています。

アメリカでは401(k)プランが広く普及していますが、普及が進んだ理由には「半強制的な加入」「積極的な資産運用の推奨」「退職年齢にフォーカスした運用」の3つがあります。

普及が進んだ理由① 半強制的な加入

アメリカの401(k)も最初から順調に加入が進んだわけではありませんでした。

そこで、加入者を増やすために1990年代後半に導入されたのが、自動加入制度です。

この「企業に入社すると従業員は自動的に401(k)プランに加入」する施策を導入したことで、加入率を引き上げることに成功しています。

もちろん、本人が望まない場合はやめることができますが、このように半ば強制的に加入するように制度が変更されました。

普及が進んだ理由② 積極的な資産運用の推奨

1つ目の自動加入制度によって、加入者は増えました。

しかし、次に加入者は増えても、資産運用に消極的な人が多いという問題が明らかになりました。

自動的に加入しただけの消極的な加入者は、リスクもリターンも低い商品に資産を置きっぱなしにしていたことでした。

加入者からの指図がない場合、加入者の資産の投資先には、日本で言えば元本確保型商品の預貯金や保険に近い極めて安全性の高い資産で構成されている商品が、設定されていました。

制度や資産運用の口座があったとしても、預貯金や保険と変わらない状態では、結局資産形成は進みません。

そこで、バランス型の投資信託のような、リスクは高まるが一定のリターンが見込める商品を初期設定する動きが加入企業の間に広がっていきました。

これを受けて、国が2007年には適格デフォルト商品(QDIA)規則を制定しました。

これは、企業が初期設定の金融商品をルールに沿って選んでいれば、元本割れが起きても企業が責任を問われることがない規則です。

このように国が法整備を行うことで、より資産形成が進む動きが推し進められました。

特徴③ 退職年齢にフォーカスした運用

さらに、退職年齢に合わせて自動運用してくれる投資信託が登場したことで、さらに普及が進んだと言われています。

ターゲット・デート・ファンド(TDF)と呼ばれる商品で、加入者の年齢や退職目標年などを基準に、資産配分が自動調整され、リスクをコントロールしてくれる投資信託です。

QDIA規則が制定されてからは、TDFを初期設定の商品に指定する企業が増加したと言われています。

このグラフが表しているように、TDFの資産残高の多くをDC、つまり401(k)が占めていることが分かります。

【図1】野村資本市場研究所「家計の資産形成を支援する制度の在り方に関する調査研究報告書」

これは、401(k)プランを導入している企業に入った人の多くは、自分で積極的に資産運用について考えなくても、自動的に401(k)プランに加入し、退職するまでの間、TDFで一定のリスクを取った運用を行えるということを意味しています。

もちろん、自分で考えて積極的に運用をしたい人はそうすることもできます。

アメリカの金融街

(2)IRA:個人年金口座

IRAはIndividual Retirement Accountの略で、日本で言う個人年金口座です。

先ほどの401(k)プランは、企業の福利厚生の一環として提供されている制度でした。

一方で、IRAは企業年金がない人のための個人年金制度として導入されました。

 金融庁の「安定的な資産形成に向けた取組み(金融税制・金融リテラシー関連)」には「職域年金のない従業員に、税制優遇を伴う退職資産形成の制度を提供する目的で導入」と書かれています。

日本のiDeCoに近い、個人向けの個人型確定拠出年金・DCの位置付けです。

導入は401(k)プランよりさらに早い1974年ですので、日本のiDeCoがスタートした2002年より28年も前のことです。

IRAも401(k)と同じように、いくつもの制度変更を経て普及が進みました。

加入者を拡大したことが普及のきっかけ

制度改正は何度も行われましたが、その中でも「普及に大きなインパクトを及ぼしたのが、1981年に加入対象者を拡大し、基本的にだれでも利用可能としたこと」です。(運営管理機関連絡協議会「確定拠出年金統計資料2002年3月末~2019年3月末」

その結果、2018年時点ではアメリカの家庭の約3分の1が加入するまでに広がっています。

日本のiDeCoは、2020年12月時点で加入者数が約180万人、加入率は3%に満たない状態ですので、いかに普及しているかが分かります。

積極的な運用の推奨

IRAも制度開始当初は、預金や保険に近いリスク・リターンともに低い運用が9割以上という状態でした。

実は、先ほどの401(k)がこの状況に変化をもたらしました。

企業年金加入者が会社を離職・転職する場合、その資金をIRAへ移行します。

実際に、IRAの資産の多くは401(k)プラン等から移管した資産です。

先ほど紹介した通り、401(k)プランに加入している人は一定のリスクを取った投資の経験を既に経験しています。

401(k)からIRAに資産が移ってくることで、IRAのリスク資産の割合も増加していったと考えられています。(IRAは70.5歳まで拠出を続けることができます。そのため、退職後に401(k)プランからIRAへ資産を移管する人も多いようです。)

3. イギリスの金融制度~ISAとNEST

ユーロと円、ドルの為替

次に、アメリカよりさらに私的年金制度が普及してイギリスを見てみましょう。

イギリスの私的年金の普及の高さは、次のグラフから読み取れます。

【図2】各国の資産形成に対する税制優遇制度の普及状況(家計金融資産に占める割合)(金融庁「安定的な資産形成に向けた取組み(金融税制・金融リテラシー関連)」より、赤枠は筆者による)

オレンジに塗られている部分が、家計の金融資産に占める私的年金の割合です。

上段の赤枠で囲われた円グラフは左から「日本」「イギリス」「アメリカ」の順に並んでいます。

私的年金の割合は、日本の8.1%、アメリカの28.9%に対し、イギリスは45.7%です。

アメリカ以上に私的年金制度の普及が進んでいることが分かります。

同じように、普及のポイントとなった制度を見てみましょう。

(1)NEST:国家雇用貯蓄信託

NESTはNational Employment Savings Trustの略で、日本では国家雇用貯蓄信託と呼ばれています。

年金スキームを提供していなかった企業・雇用主向けに作られた、イギリスの私的年金制度です。

アメリカ同様に、イギリスのNESTにも「自動加入」「瀬一曲的な資産運用の推奨」の制度が盛り込まれています。

企業年金の「自動加入制度」

イギリスでも、私的年金を拡充するための対策が進められてきました。

イギリスでは、2012年から企業年金への自動加入が義務付けられました。

内容が重複するため、要約してお伝えすると、

  • 当初は、私的年金に加入するかどうかは従業員個人の意思に任されていたが、加入する人が少なかった
  • そこで「年金制度への自動加入措置」が導入された(やめたい人は脱退することができるオプト・アウト方式を採用)
  • 年金制度を提供していない、主に中小の雇用主にはNESTを提供
  • NESTの初期設定商品は、NESTリタイアメント・デート・ファンド(米国におけるTDF:ターゲット・デート・ファンドと同じ、退職年齢を元にリスクとリターンが調整されるファンド)となっているため、一定のリスクとリターンを取った運用が行われるようになっている

このように、米国とほとんど同じような制度・変遷になっていることが分かると思います。

脱退することはできるものの半ば強制的に加入を促し、ある程度リスクを取って運用できる仕組みにすることで資産運用を促進しています。

(2)ISA:個人貯蓄口座

また、イギリスには日本のNISAのモデルとなったISAと呼ばれる非課税投資制度があります。(NISAはISAにNipponのNを頭文字に付けた名称です。)

ISAは資産額的にはそれほど多くはありませんが、非常に高い普及率になっています。

次のグラフは、成人世帯に占める税制優遇制度の利用者の割合を示しています。

【図3】各国の資産形成に対する税制優遇制度の普及状況(成人人口・世帯に占める割合)(金融庁「安定的な資産形成に向けた取組み(金融税制・金融リテラシー関連)」より)

NEST同様に、税制優遇制度でもイギリスの普及の高さが見て取れます。

日本の11.4%、アメリカの34.8%に対し、イギリスは42.5%という普及率の高さです。

ISAの特徴は、次の通りです。

  • 住宅購入や年金積立などの目的に応じて様々なバリエーションがある
  • 政府からのマッチング拠出がある
  • 当初は10年間の期間制限のある措置だったが、2007年に恒久化された

国民が使いやすいように制度自体を変化させながら、拡大している制度と言えます。

このように、イギリスでは老後に向けた資金準備に適した私的年金と、税制優遇のあるISAを組み合わせることで、資産形成を推し進めています。

4. 海外事情から考える日本の金融制度の将来

ここまで、アメリカとイギリスの制度を見てきましたが、並べてみると制度普及の道のりに似通った点が多いことが分かったのではないでしょうか?

  • 確定給付型から確定拠出型へとシフト
  • 制度はあっても加入しない人を、半ば強制的に加入するよう制度を変更
  • 運用に消極的な人でも、積極的な資産運用ができるように制度設計を変更

このような共通点や、そもそもNISAやiDeCoがアメリカ・イギリスの制度を元に作られていることからも、日本でも次のような動きが起こることは十分に考えられます。

  • 今は期間が制限されているNISAが永続化される
  • 企業型確定拠出年金の、初期設定が資産運用に向いた商品に変わる
  • iDeCoの拠出額や拠出可能年齢などが引き上げられる

この記事で参考にした資料を見ても、国は海外の成功事例に学び、良いところは取り入れようとしていることが分かります。

今後も、私たちの資産形成・資産運用が進む制度変更が行われていくことを期待したいと思います。

まとめ

この記事では、日本で「貯蓄から投資へ」が進まない理由を金融制度の面から見てきました。

いかがでしたでしょうか?

アメリカやイギリスは投資に積極的に見えるかもしれませんが、彼らも最初は元本確保型の商品に資産を置いていたことにも気付いたのではないでしょうか?

アメリカ・イギリスの金融制度の歴史を見ると、日本の制度はまだ発展途上にあると言えます。

制度の整備には、まだ一定の時間がかかるかもしれません。

今は不十分に思える制度でも、紹介してきたように良い方向へ変わっていく可能性があります。

まずは、一歩足を踏み出してみてはいかがでしょうか。

10年後・20年後には、欧米のように資産運用が当たり前になっているかもしれません。

次回は、日本人の金融リテラシーについて見ていきたいと思います。


1:投資の成功体験を積めていない

 ▼

2:制度設計が遅れている

 ▼

3:金融リテラシーが不足している



 

※本ページに記載されている内容は2021年3月7日時点のものです
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