日本で「貯蓄から投資へ」が進まない理由③ 金融リテラシーが不足している

2003年に「貯蓄から投資へ」のスローガンが掲げられて20年近くが経ちましたが、日本人の家計の割合は相変わらず現預金が中心で、「貯蓄から投資へ」が進んでいないのが現状です。

3回シリーズで、なぜ日本では「貯蓄から投資へ」のシフトが進まないのかについて探ってみたいと思います。

最終回は「日本人の金融リテラシー」について見ていきたいと思います。

1:投資の成功体験を積めていない

 ▼

2:制度設計が遅れている

 ▼

3:金融リテラシーが不足している

1. 投資信託の人気ランキングから考えられる特徴

日本で「貯蓄から投資へ」が進まない理由の3つ目は、日本人の金融リテラシーが不足していることです。

金融リテラシーが足りていないことに起因して、次のようなことが起こっているかもしれません。

  • 「投資=危険・損をする」というイメージあり、資産運用に踏み出せない
  • 適切な投資が行えない、何を買ったらいいか分からない
  • 思わぬ損失を出してしまったり、売ってはいけないタイミングで売ってしまう

まずは、投資信託の純資産残高のランキングを見てみます。

このランキングは、多くの人が買っている投資信託を表しているので、多くの人がどのような投資を行っているかのヒントになります。

【図1】投資信託の純資産残高ランキング(ETF除く)(2020年10月20日時点) 出所:モーニングスターのデータを参考に著者・BIG TREEにて作成

純資産残高が高いことは、何を意味しているでしょうか?

過去に売れた商品、もしくは今購入している人が多い商品だと言えます。

実は、日本の投資信託の純資産残高のランキングは入れ替わりが激しいです。

(1)過去によく売れた商品

先ほどのランキングのうち、過去によく売れた商品は次の4つのファンドです。

1位:ピクテ・グローバル・インカム株式

過去に、純資産残高が3兆円に迫るまで売れたファンドです。

リーマンショックの影響で大きく資産残高が減りましたが、5,000億円以上の残高を維持していること、分配金が出続けた実績と分配金込みの基準価額が過去の高値を超えたことを要因に、残高が1位になっています。

3位 円奏会

ゆうちょ銀行の定額貯金が満期となった資金や、個人向け国債の償還など、安全資産の受け皿の位置付けとなり、資産残高を伸ばしたファンドです。

現在は新規購入者の減少に伴い、資金流入の勢いは落ち着いてきています。

9位と10位のUS-REIT2銘柄

数年前まで、アメリカのREIT(不動産の投資信託)市場が好調だったことと、高い分配金が出ることから資産残高を伸ばしたファンドです。

投資信託の上位ランキングには、一時期多くのREIT関連ファンドが上位にランクインしていました。

ここ3年ほどは市場が落ち着いているため、この2銘柄がランクインするに留まっており、REIT関連のファンドの資産残高は減少傾向にあります。

(2)今購入している人が多い商品

今購入している人が多い商品は、アメリカを中心にしたグローバル株式を投資対象とする投資信託です。

これらの商品には、次のような特徴があると考えられます。

  1. 直近の利回りが高い
  2. テーマ型の投資信託である
  3. またはその両方

まずは、直近の利回りが高い商品を見てみましょう。

5位の「未来の世界」、6位の「AB・米国成長株投信Dコース」、7位の「netWIN GSテクノロジー株式ファンド B(H無)」は、いずれも過去3年で年20%前後の利回りを出しています。

4位の「イノベーティブ・フューチャー」、6位の「The 5G」の2つのファンドは運用開始から3年未満ですが、直近1年ではそれぞれ103.16%、30.95%という驚くほど高い利回りになっています。

つまり、これらの商品は、近年の高い利回り・実績が評価されて購入が進んでいると考えられます。

 

次に、テーマ型の投資信託について見てみます。

2位の「未来の世界(ESG)」は、名前の通りESGに関連する投資信託です。

2020年7月に販売開始したばかりで、ほとんど運用実績がないにもかかわらず、資産残高2位にランキングされています。

最近話題になることも多い、ESGへの世間の関心の高さを感じます。(ESGは環境:Environment」「社会:Social」「ガバナンス:Governance」の3つの観点を重視した考え方です。)

先ほどの利回りの高さでも紹介した、4位のイノベーティブ・フューチャー、7位のnetWIN、8位のThe 5Gはテーマ型の投資信託でもあります。

テーマ型の投資信託の特徴は、最近ニュースやネットでもよく目にするから「ESG関連はこれから伸びそう」などイメージがしやすいため、投資の判断が行いやすいと考えられます。

2. 投資信託の人気ランキングから分かること

投資信託中心の金融商品

投資信託のランキング上位に位置している商品の特徴は、直近の利回りが高いテーマ型の投資信託であると言いました。

では、このことは何を意味しているのでしょうか?

最近の利回りが良い商品や話題になっている商品を購入し、利回りが悪くなってきたら、次の新しい商品に飛びつく、みなさんがそういった理由ではないものの、そのような行動が見受けられます。

上位にグローバル株式ファンドが多くランクインしているのは、好調なアメリカ株式市場に乗り遅れたくないと焦る気持ちがあるからかもしれません。

過去にアメリカのREITファンドが好調だったのも、当時REIT市場が好調だったことが大きな要因だったと考えられます。

投資信託を組成・販売する立場の企業も、当然「話題になっている商品が売れる」と考えて、商品の企画をします。

ただ、実際に投資信託を販売するまでには、商品の企画、企業内での承認などの様々な手続き、所定の届け出などを経るため、実際に売り出すまでにある程度の時間が掛かります。

そのため、販売する時点では話題がピークになっている場合もあり、結果的に高値で買ってしまうケースも少なくありません

投資信託はそもそも、長期的な資産運用に向いた商品です。

そのため、このように短期的に売買を繰り返すような投資行動をしていては、資産を安定的に増やすことは難しいです。

このような行動は投資というより、投機に近いとも考えられます。

先ほどのランキング表の右側に、過去3年間のリターンと標準偏差を記載しています。

標準偏差とは数字のバラつきを表す数値のことで、いわゆるリスクと呼ばれるものです。

その商品がどれだけ上下に動くか、つまり値動きの大きさを数値で表したものです。(数値がない商品は、運用実績が3年に満たないため計算ができない商品です。)

数値が大きい=リスクが大きい、ということなります。

リスクが大きいということは、大きな利回りも期待できる一方で、同じだけ値下がりする可能性もあるということです。

先ほどの上位10個の投資信託のうち、リスクが比較的低いのは2位の「円奏会」の4.07だけだと言えます。

その他の投資信託は標準偏差が15%以上です。

一般的な投資信託の長期利回りは、3〜6%と言われていますので、これらはかなりリスクが高いと言えそうです。

投資をするのであれば、高い利回りに惹かれるのは当然のことです。

しかし、利回りだけではなく「どれだけリスクがあるのか?」「その値下がり・損失を許容することができるのか?」も合わせて考える必要があります。

3. 商品設計と金融リテラシーの関係

投資信託の資産残高ランキングから考える日本人の投資行動から、流行っているものに飛びつくような思考があるように考えられました。

このような投資行動は「顧客の資産形成のためになる商品」というより、「売れる商品」を作る思考があることも否定はできないと思います。

次のグラフは、投資信託を購入した経験のある人に、投資信託への興味・関心・購入のきっかけを聞いたアンケートです。

【図2】出所:投資信託協会「2019年度投資信託に関するアンケート調査報告書

これを見ると、全体としては「金融機関の人に勧められて」が投資信託を購入したきっかけの1位になっています。

20代から40代では、インターネットや本で調べて購入する人が多いことが分かります。

一方で、50代でその比率は逆転し、その後は年齢が上がるほど、金融機関の影響が大きくなっていると考えられます。

金融機関が先ほどのランキング上位の投資信託を勧めているかは分かりませんが、その商品が「金融機関が売りたい商品」か「自分の資産形成のためになる商品」なのかを見極める必要があります。

先ほどの若い世代の行動を見ても分かる通り、今はインターネットで様々な情報が手に入ります。

金融機関も自分たちの利益だけではなく、お客様の資産形成のためになることの必要性に気が付き始めています。

金融庁も「顧客本位の業務運営」の取り組みを強化しているため、金融機関には「顧客の利益を最大化する姿勢」が今後ますます求められます。

一方で、私たち投資家も「勧められた商品を買った結果損をした」「リスクが高い商品だと知らなかった」と言っていてはいけません。

投資はあくまで自己責任です。

自分で「どういった性質の商品か?」「リスクがどの程度あるか?」「自分の資産運用に合った商品か?」を理解し、判断する必要があります。

実際に金融機関で働いていると、長期投資の考え方はなかなか理解してもらえないことも多く、最終的にお客様自身がリターンが高いけどリスクも高い商品を選択するケースもありました。

少し繰り返しになりますが、先ほどのアンケートでも、年代が上がるほど「インターネットや本などで自分で勉強して」買う割合が低くなっています。

厳しい言い方になりますが、「売れる商品」が作られるのは、そういった商品を求める投資家の行動があることも否定できません。

これからは、私たち投資家自身が投資に関する知識を身に付け、金融機関の説明や商品を理解して行動する、いわゆる金融リテラシーを高める必要がありそうです。

4. 金融リテラシーの現状

お金のリテラシーを身につける

金融庁は、日本の金融リテラシーを高めるために、小学生からのガイドラインを作ったり、大学の授業に金融教育を取り入れる活動も行なっています。(金融庁「安定的な資産形成に向けた取組み(金融税制・金融リテラシー関連)」より)

ただ、残念ながら現在のところ大きな広がりは見られません。

それよりも、先ほどのアンケートからも分かる通り、若い世代の人がインターネット上の投資や資産形成に関する情報(Twitter、動画、ブログなど)や本などで、自分で勉強して知識を得ている傾向にあると考えられます。

FP(ファイナンシャル・プランナー)や、私たちIFA(独立系の金融アドバイザー)など様々な立場の人が情報発信をしています。

学ぶ意欲があれば、いくらでも学べる環境は整ってきています。

若い世代はもちろん、50代・60代・70代の方々にも、自分で勉強して自分に合った投資スタイルを見つけてもらいたいと思います。

ただし、インターネットの情報は玉石混合でもあります。誤った情報や偏った情報もあります。

こういった情報を見極めるためにも、金融リテラシーが必要です。

先ほどの投資信託ランキングのような情報を見て、すぐに飛びつかないようにしましょう。

まとめ

このシリーズでは3回にわたって、日本で「貯蓄から投資へ」が進まない理由を、次のように解説してきました。

  1. 日本経済の停滞を背景に、株式を中心に投資の成功体験を積めていない
  2. アメリカやイギリスに比べて、金融制度の整備が遅れているため投資の経験が少ない
  3. 金融リテラシーが足りていないため、正しい投資の判断ができていない

もし、あなたが投資に対していいイメージが持てなかったり、投資はギャンブルだ、損をするのが怖い、といったように感じているのであれば、こういったことが背景にあるかもしれません。

私自身も今回のコラムへの執筆を通じて、「貯蓄から投資へ」はまだまだ道半ばではあるものの、少しずつ進んできていると感じています。

すでに投資を始めている方や、これから始めたいと思っている方にとって、このコラムが少しでも参考になっていただければ、とても嬉しく思います。

【ご注意事項】
当コラムは、情報提供のみを目的としたものであり、特定の銘柄への投資の勧誘や売買の推奨を目的としたものではありません。
投資信託は、主に国内外の株式や債券等を投資対象としています。投資信託の基準価額は、組み入れた株式や債券等の値動き、為替相場の変動等により上下しますので、これにより投資元本を割り込むおそれがあります。
投資信託は、個別の投資信託毎にご負担いただく手数料等の費用やリスクの内容や性質が異なります。ファンド・オブ・ファンズの場合は、他のファンドを投資対象としており、投資対象ファンドにおける所定の信託報酬を含めてお客様が実質的に負担する信託報酬を算出しております(投資対象ファンドの変更等により、変動することがあります)。
ご投資にあたっては、商品概要や目論見書をよくお読みください。

  • 金融商品仲介業者である、BIG TREE株式会社の商号等はこちら
  • 所属金融商品取引業者である、株式会社SBI証券の概要は以下の通り
    • 株式会社SBI証券
    • 【登録番号】関東財務局長(金商)第44号
    • 【加入協会】
         日本証券業協会
         一般社団法人 金融先物取引業協会
         一般社団法人 第二種金融商品取引業協会

1:投資の成功体験を積めていない

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2:制度設計が遅れている

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3:金融リテラシーが不足している



 

※本ページに記載されている内容は2021年3月7日時点のものです
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